台湾の道路交通事情は、近年「歩行者の地獄(Pedestrian Hell)」という言葉が国内外のメディアで広く報じられたこともあり、社会的・政治的な最優先課題の一つとなっている。
人口約1億2000万人の日本では年間の交通事故死亡者数がおよそ2600人であるのに対し、人口約2300万人の台湾では約3000人に達する。人口比で換算すると、台湾の交通事故死亡率は日本の約5倍前後とされている。
もっとも、台湾当局も手をこまねいていたわけではない。交通事故死亡者数の推移を見ると、「経済成長に伴う急増期」「安全対策による減少期」、そして「近年の下げ止まりと再増加」の3つの段階を経てきたことがわかる。
交通事故死が日本の5倍
1980年代後半から1990年代前半にかけては、急速な経済発展に伴い、自動車やバイクの保有台数が爆発的に増加した。当時は交通インフラや法整備が追い付かず、年間死亡者数が7000人から8000人を超える深刻な状況に陥っていた。
その後、1990年代後半から2010年代にかけては、ヘルメット着用義務化や飲酒運転の厳罰化などの施策が効果を上げ、死亡者数は大幅に減少した。2010年代半ばには年間2500人から2700人程度まで低下している。
しかし2020年代に入ると、スマートフォン普及による「ながら運転」の増加、高齢化の進行、さらにはフードデリバリー需要の拡大によるバイク利用の増加などを背景に、再び悪化傾向がみられるようになった。2022年には3085人と過去10年間で最悪を記録し、現在も年間3000人前後で高止まりしている状況が続いている。
台北市、新北市、高雄市、台中市などの主要都市では、地下鉄や鉄道を中心とした公共交通網が大きく発展した。しかし、それにもかかわらず事故の減少が限定的な理由については、さまざまな要因が指摘されている。
台北経済圏と呼ばれる台北市や新北市では、地下鉄が市民生活に深く定着している。一方で、台中市、台南市、高雄市をはじめとする中南部や地方都市では、公共交通網が十分とは言えず、現在も自家用車やバイクへの依存度が高い。
また、台湾は年間を通じて高温多湿な気候であり、夏場は厳しい暑さに見舞われる。そのため、駅から目的地までの短距離移動であっても、冷房の効いた自動車や目的地の近くまで移動できるバイクが選ばれやすく、公共交通への全面的な転換が進みにくいとの指摘もある。

