重要なのは、脱人間化はそれ自体が原因ではなく、複数の要因が重なった結果として生じるプロセスだという点である。
まず加害者の個人特性として、情動的共感(他者の苦痛を感じ取る能力)の乏しさが関与した可能性がある。頭では相手の状態を理解しながらも、情動的な共感が機能しない場合、他者の苦痛を無視することが可能になる。
また、本件の加害行為は、感情的爆発というより、そもそものきっかけを大きく逸脱した激しく執拗な性質を持つことから、相手を支配したり、恐怖を味わわせたりすること自体を目的とし、そこに一種の快楽を見出していたサディスティックな攻撃性のパターンに近いとも考えられる。
なぜ加害行為はエスカレートするのか
本件の報道を聞いて、誰しも「なぜ途中で我に返らなかったのか」という疑問を抱いたであろう。しかし、心理学的には、上記のような攻撃性を背景にして一度加害を始めた者が、それを自発的にやめることは、想定されるよりはるかに困難である。
その主要なメカニズムの一つが「認知的不協和」による自己正当化である。「自分は悪人ではない」という自己概念と「相手を傷つけている」という現実の矛盾を解消するため、「相手が悪い」「大したことではない」「当然の報いだ」という認知的再解釈が自動的に生じやすい。この正当化が成立するたびに、次の加害への内的抑制はさらに弱まる。
加えて、加害行為を繰り返すうちに、被害者の苦痛への感受性が段階的に低下する「脱感作」というプロセスが生じる。つまり、相手が泣いても苦痛を訴えても、だんだんそれに馴れてしまい、何も感じなくなっていくのである。
