「いや、ムリ」。言われた瞬間そう思いましたが、ひとみさんは気を遣って、「ああ……」と答えて黙り込みました。母親はいったん引き下がりましたが、その後も「お父さんと呼んだら?」と言ってきたことが、高校の間に2~3回はあったとか。
ひとみさんは、なぜその人を「お父さん」と呼ぶのが嫌だったのでしょうか。
「やっぱり“お父さんではない”というのが一番ですかね。それに、私は父親と距離感が近すぎてすごく嫌だったので、そういうのはもうこりごりというのもあった。
母のことは“お母さん”と呼んでいましたけど、母と比べて、おっちゃんはすごく距離が遠い。なのに、なんで似たような呼び方をしなきゃいけないのか、という思いもあったかもしれません」
継父よりも嫌だったのは母
そんなある日、ちょっとした事件が起きました。
高校の部活の帰り、ひとみさんは友達とのおしゃべりに夢中になり、門限の時間にだいぶ遅れてしまったのです。急いで帰りましたが、かなり心配していたらしく、おっちゃんは「遅い」などとまくし立て、「そんなにこの家が嫌なら出ていけ!」と、ひとみさんを怒鳴りつけました。
「おっちゃんも嫌だったけど、もっと嫌だったのは母です。怒鳴られたあと、ちょっと落ち着いたときの、母のおっちゃんの肩をもつような言葉のほうがグサッときた。『そこで私の味方しないんだ、おっちゃんの肩もつんだ』というショックのほうが大きかった」
このとき、ひとみさんはお母さんに、本当はどうしてほしかったのでしょう。
「おっちゃんは私にとって、あくまで“母にくっついている大人”なので、その人に帰りが遅いのを怒られても……。私に関することは、おっちゃんじゃなくて母に一番に言ってほしかったですね」
継親に怒られるのが耐えがたかった、という子どもの話を、筆者はこれまでもときどき聞いてきましたが、ひとみさんも同様だったのでしょう。
この一件を機に、「大学に入って、家を出たい」と強く決意したひとみさん。受験勉強に力を注ぎ、その後無事、家から離れた大学に合格して一人暮らしを始めました。
