当時、ひとみさんは母親ともよく会っていましたが、父親のことは相談していませんでした。もともと母親と会うときは、父親の話はしないのが常だったのです。
「お母さんに会ったら気持ちを切り替えて、(父のことは)忘れちゃっていたので、言おうと思わなかったし、そんな発想がありませんでした。父親のことで、迷惑もかけたくなかったですし」
ようやく母親に打ち明けたのは、高校に入った頃でした。
「会ってすぐ、母の車に乗って、もうふつうの会話ができなくて泣いてしまって。『どうしたの』って聞かれ、話をして。『帰りたくない』と私が言ったら、しばらくして母が『うちで暮らす?』って。考えたこともなかったので、すごく驚きました」
当時のひとみさんにとって、母親は「ほかに家族(再婚相手)がいる人」。いっしょに住むなど思いもつきませんでした。でも言われてみたら、ほかに解決策はなさそうです。「そうする」と答え、それから間もなく母とその再婚相手が住む家に移りました。
「すごく大きな肩の荷が下りた感じです。やっと、ふつうの生活ができる。(父を)気にせず夜は寝られるし、自分の部屋がちゃんと守られている。すごいなって思いました」
“お父さん”と呼ぶのは「ムリ」
父親と離れてストレスは激減したものの、新しい生活がそう快適だったわけでもありません。母親が仕事で家にいないときは、“おっちゃん”と2人きりで過ごすしかなく、ひとみさんは気まずさを感じていました。
「父親から離れてもこれがあるか、みたいな感じです。何を話していいかわからないですし、こっちからしゃべりかけることもなく、気まずい。不思議なんですが、母ともうまく話せなくなりました。一緒に住むようになって、モヤモヤすることが積み重なっていたからかもしれない。自分だけ“ヨソモノ”みたいな感覚もありました」
母親から、おっちゃんのことを「お父さんって呼んでみたら?」と言われたのは、一緒に暮らし始めてしばらく経った頃でした。「喜ぶと思うよ」と言われたので、もしかしたら、おっちゃん本人が望んでいた可能性もあります。
