ロシアのウクライナ侵攻をめぐる戦局は、キーウ側の優位が一層明確になってきた。勢いづくウクライナのゼレンスキー政権は今年後半に向け、何を狙っているのか。一方で、受け身に回ったロシア・プーチン政権はどう巻き返そうしているのか――。
まず、3つの柱から成る、ウクライナ側の軍事戦略を説明しよう。
それは①ロシアの継戦能力を、軍事・経済・社会の3分野でドローン攻撃によって徹底的に削っていく、②最前線後方にあるロシア側地域の攻撃対象を「戦略的後方」として拡大し、ドローンでこの地域にある司令部、兵員、武器集積所などを徹底的に攻撃する、③依然としてロシア軍が攻勢を続けている戦線では、徹底的に防戦することでロシア軍の兵力を消耗させる「戦略防衛」を続ける、というものだ。
3年半ぶりに実現したウクライナ軍の大幅な占領地奪還
実際、この戦略を実行する中で、ロシア軍が脆弱化した戦線では、占領された地域をウクライナ軍は奪還しつつある。ゼレンスキーは5月22日、今年に入って約590平方キロの領土を解放したと宣言した。ウクライナ軍が本格的に占領地を奪還したのは、2022年秋の東部・南部での反撃以来のこと。ゼレンスキー政権は当面、終戦交渉は先送りの構えで、戦略継続により、プーチンを侵攻継続断念に追い込むことを目指している。
さらに、占領地解放以外でも、特記すべき大きな戦果があった。
アゾフ海北岸に沿って東西に延びるロシア軍の最重要補給路「陸上回廊」を5月、ウクライナ軍がドローン攻撃による射程内に完全に収めたことだ。
これは、ウクライナ軍が、約100キロ離れた場所からいつでもドローン攻撃を行える状態になったことを意味する。この結果、陸上回廊を通るロシア軍のトラック補給は大幅に減った。
戦局的に持つ意味は大きい。陸上回廊は全長約500キロ。ロシア南部から、ウクライナ東部ドネツク州、南部のザポリージャ州、ヘルソン州を経由して、ロシアが14年に違法併合したクリミア半島に至る。この回廊を安全に使えなくなったことはクリミアを含め、周辺各地のロシア軍にとっては、大打撃なのだ。
実は、この回廊には、ゼレンスキーの苦い記憶が刻まれている。23年6月からのウクライナ軍の大規模反攻は失敗したが、その大きな要因となったのが、当時は陸上回廊に届く中距離の火砲がなく、ロシア軍の補給を止められなかったことだったからだ。
今回、陸上回廊におけるロシア軍の補給網の寸断が実現したことで、ウクライナ軍は本格的な反攻作戦を再び開始する可能性が出てきたともいえるだろう。
ウクライナ挽回を支えるアメリカの大物実業家たち
陸上回廊寸断の実現で活躍したのは、AI(人工知能)を搭載した新型ドローン「ホーネット」だ。AIが映像を識別し、攻撃目標を定めて自律的に飛ぶ。軌道を自ら変えることもできる。ホーネットは、元米グーグル最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミットによる支援を受けたアメリカのベンチャー企業が中心になって開発された。
「独ソ戦を超える5年目に突入したウクライナ戦争の今」に書いたように、今年に入り、ロシア軍が守勢に回った大きな要因は、使っていたアメリカの衛星通信サービス「スターリンク」の通信が遮断されたことだった。この遮断を決めたのはスターリンクを開発した米宇宙企業スペースXを率いるイーロン・マスクだ。
重要なのは、ウクライナに冷淡な態度を示すトランプ大統領と異なって、アメリカの2人の大物実業家はウクライナの軍事力強化を支え始めているという点だ。今後もアメリカ経済界からウクライナ支援に乗り出す実業家が出てくる可能性はある。
ウクライナ軍のドローン戦力の充実について、今年3月にベロウソフ・ロシア国防相はプーチンに対し、「ロシア軍のドローンが著しく劣っている」と悲観的な報告をしたと言われている。
