一連の開発成果により、ウクライナはこれまで保持していなかった弾道ミサイルを今年8月にも実戦配備する予定と言われる。となれば、長距離ドローン、長距離巡航ミサイル、AI搭載ドローン、誘導弾などと併せ、計画していたすべての攻撃兵器が揃うことになる。
ウクライナ軍は最近、モスクワに対する大規模ドローン攻撃でプーチンに衝撃を与えたが、今年末までには、ドローン以上に破壊力が大きい弾道ミサイルでモスクワを攻撃できる体制が整うとも言われている。
これに加え、ウクライナは欧州との間で兵器共同開発の動きを本格化させている。その代表格はドイツだ。ウクライナのフェドロフ国防相とドイツのピストリウス国防相は5月上旬、ドローンなどの防衛技術開発で協力することで合意した。すでにウクライナの軍事会社ファイア・ポイント社は、弾道ミサイルと防空ミサイルシステムの開発をドイツ企業と共同で進めることで合意している。この防空システムはロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」への対応を念頭に置いていると言われている。
こうした動きが意味することは何か。
ウクライナ侵攻は「新たな戦争」へ移行した
トランプ政権が欧州防衛において、NATO(北大西洋条約機構)のリーダーとしての責任を十分果たさないとの懸念が高まっている中、欧州各国はウクライナと二人三脚で兵器開発を推進していく方針を実行に移している。これをモスクワ側から見れば、ウクライナ侵攻はもはやロシアとウクライナの戦争ではなく、「ウクライナ+欧州」対ロシアという「新たな戦争」に移行したということだ。
EU(欧州連合)全体のGDP(国内総生産)はロシアの8〜9倍もある。EUが今後、本気になって軍事力を整備すれば、ロシアにとって非常に大きな脅威になる。このため、プーチンはこの新たな戦争を強く恐れていると筆者は見る。
では、プーチンはこうした状況にどう対応しようとしているのか。プーチンの今後の戦略は以下の3つから成るだろう。①引き続きウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク・ルハンスク両州)制圧という目標を維持する、②軍事的エスカレーションによって、キーウと、前面に出てきた欧州に対する威嚇を強める、③国内では「もはや惰性の戦争」との声が出ているのに対し、世論の侵攻支持維持を図る、である。
特に②で、ロシアが狙っているのは、欧州が本格的に経済力に見合った軍事力を身に着ける前に、軍事的威嚇を加えて、ウクライナとの軍事協力に二の足を踏ませることだ。依然としてプーチンは、長期戦略に基づいた対応を考えるのではなく、目の前の難題には強気の正面突破を図る、という侵攻開始以来の思考回路であり続けている。
しかし、そうしたプーチンも徐々に平常心を失いつつあることを物語る場面が最近あった。クレムリンで若手軍人との会合に出席したプーチンが、侵攻の現状について「ウクライナは危機的状況から破局的状況に移りつつあるのだ」と叫ぶように決めつけたのだ。
プーチンは普段は冷静に話すのだが、ロシアの政治評論家からも「珍しいことだ。よほど、戦況の現状に苛立っているのだろう」と驚きの声が出るほどだった。
ロシアの軍事的エスカレーションと威圧戦略は、早速、その後のウクライナへの攻撃に表れた。5月下旬、ウクライナによる民間施設攻撃への報復と称して、最新式中距離弾道ミサイル「オレシニク」やドローンでキーウなどに大規模な攻撃を加えたのだ。ウクライナに対しオレシニクを使用したのは侵攻開始から3回目だ。
この後、威圧はさらにエスカレートした。ロシアのラブロフ外相が、アメリカのルビオ国務長官と電話会談し、キーウにある軍事施設や政府中枢機関への連続攻撃を開始すると伝えたのだ。そのうえでロシアは、各国大使館の外交官や国際機関職員らにキーウから退避するよう警告した。最近のウクライナによるドローン攻撃で失ったロシア軍の威信を取り返そうという狙いなのだろう。
しかし、これに対し、日本を含め主要国大使館はキーウから退避せず、冷静に反応したため、プーチンの威嚇戦略は空振りに終わった。
次なるプーチンの威嚇戦略は何か
今後、プーチンの威嚇戦略はとこまでエスカレートするのか。当然、ウクライナや欧州は警戒感をもって注視している。
当面の焦点は、一部で可能性が報じられたように、北京でプーチンとの首脳会談を行ったばかりの中国の習近平国家主席による北朝鮮訪問だ。これが実現すれば、ロシアへの軍民両用部品を提供することで、侵攻を事実上支えている中国のトップが、ウクライナへの派兵を続ける北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との間で、何らかのロシアへの軍事支援の枠組み作りを協議する可能性もあるだろう。
ロシアには侵攻で失敗してほしくない中国がどう動くのか。新たな火種が生じるかもしれない。
