岐阜県では、校長が3年ごとに学校を異動しながらキャリアを重ねていく。その中で、小規模校で取り組みを経験した校長たちが、中核校や進学校へと異動する中で、演劇ワークショップを経験した校長たちが県内全体へ広がっていった。
堀氏は、「これは岐阜県の学校経営にとって非常に大きかった」と振り返る。実際、地域の伝統校や進学校の校長の中にも、この取り組みを経験した人物は少なくないという。演劇ワークショップは今や、一部の特色ある活動ではなく、「生徒理解」や「学校づくり」の視点として、少しずつ県全体に根付き始めているということだ。
さらに近年、県内の一部地域で増加している外国籍生徒との関係づくりにおいても、その役割は大きくなっているという。
実施校の中には、「生徒の6〜7割が外国籍」というところもあるといい、「演劇ワークショップで、外国籍の生徒と、もともと日本にいる生徒が心を通わせる」といった点でも一定の効果があるのではないかと語る。背景の異なる生徒同士が、対話や身体表現を通じて関係性を築いていく場としても機能している。
「人と関わる力」を学校はどう支えるのか
堀氏は、一連の取り組みを、「学校の中で孤立しがちな生徒も含めて、安心して人と関われる空気をつくること」と語る。
不登校や、対人関係に苦しさを抱える生徒が増える中で、「まずは人と関わっても大丈夫だと思える経験が必要です」と、堀氏は話す。
演劇ワークショップでは、発言のうまさや積極性を求めるのではなく、相手の話を聞く、視線を向ける、自分の感じたことを少し言葉にしてみる——そうした小さなやり取りを積み重ねていく。
今後については、予算上県内全校への展開には壁があるものの、学校現場からの関心は高い。堀氏によれば、昨年度、各校長に対して「学校として取り組みたいか」というアンケートを行ったところ、「3分の2以上の学校が、ぜひ取り組みたいと回答した」という。
堀氏は、「地域に生きる子どもたちをどう社会につないでいくか。これも、公立高校の役割です」と語る。
相手の表情を見る。言葉を受け止める。自分の気持ちを口にしてみる。岐阜県の演劇ワークショップは、そうした小さなコミュニケーションの積み重ねを通して、「学校の中で人と関わる経験」を支えようとする実践とも言える。
学力だけでは測れない時代に、公立高校は何を育てるのか。岐阜県の取り組みは、その問いに真正面から向き合っている。


