それでもあえて踏み込んだのは、ブランド価値を引き上げる狙いがあるからだ。料理人がいる店としての魅力を打ち出すことで、単なるファストフードとは異なる位置づけを確立する。効率だけを追求するのではなく、あえて手間のかかる領域に踏み込み、きしめんという食文化の価値そのものを高めようとしている。
効率を捨ててでも守るもの、変えるもの
特筆すべきは、役割分担の明確さである。味の設計は星が丘製麺所、店舗運営ははなまるうどん。この線引きは意図的に設計されている。特に出汁や醤油といった核となる部分については、一切の妥協を許さない。
「スケールメリットが出る部分については、はなまるさんの仕組みを取り入れますが、出汁の素材やたまり醤油、白醤油など味の核となる部分を変えたら、きしめんではなくなってしまいますから」(衣笠さん)
効率を優先すれば展開はしやすくなる。しかしそれでは、きしめんという文化そのものが変質してしまう可能性がある。だからこそ今回は、非効率を削るのではなく、支えながら成立させるという選択が取られた。
果たして、それはビジネスとして成立するのか。カギは、人々がきしめんに接する機会を増やすことにあると前田さんは見ている。
「きしめんを食べたいと思っても、そもそも食べられる場所がない。だからまずは人の多い場所に出し、体験してもらうことが重要です。その上でランチの選択肢として定着すれば、市場は自然と広がっていくでしょう。まずは、人口の多い東京や大阪での出店を検討しています」(前田さん)
今年4月、名古屋市中区新栄町にオープンしたトリッドスクエア店は、栄三丁目店とは趣が異なり、フードコート内にある店舗である。いわば、はなまるうどんが得意とする業態だ。
朝・昼・夜それぞれの時間帯ごとにお値打ちなセットメニューを用意しており、今後ショッピングモールなどの大型商業施設や空港、サービスエリアなどで展開すれば、全国展開も夢ではない。
ローカル食は、そのままでは広がらない。効率だけでも続かない。どこまで守り、どこから変えるのか。その問いに明確な正解はない。だからこそ問われるのは、どう広げるかではなく、どう向き合うかだ。きしめんズズズの挑戦は、その一つの形である。
