「出店のオファーは数多くいただくのですが、人もお金も足りず出店できない。すべて断らざるを得ない状況が続いていました。周りからは儲かっていると思われていたかもしれませんが、実際はそうではありません。5年後に続いているかどうかも分からない、という感覚でした」(衣笠さん)
きしめんを広めたいのにどうすることもできない。そんなジレンマを抱えたまま、時間だけが過ぎていった。
うどん大手の社長が「もったいない」と感じた瞬間
転機が訪れたのは約2年前、はなまるうどんの代表取締役社長 前田良博さんが星が丘製麺所を訪れたことだった。さぬきうどんチェーンとして26年にわたり事業を拡大してきた同社は、次の成長エンジンを模索していた。
「本物であること、日常であること、人財である社員たちが輝く業態であること。この3つを満たすものを探していました。その基準で見たとき、星が丘製麺所に大きな魅力を感じたのです。さらにきしめんを食べて驚きました。うどんとも違うし、ただの平打ち麺でもない。食感や出汁ののり方、そして盛り付けたときの美しさにどこか色気があるんです」(前田さん)
長年うどんに携わってきた立場から見ても、その違いは明確だった。同じ満腹でも、きしめんは満たされ方が異なり、食べ終わったあとに余韻が残る。その感覚は単なる商品評価ではなく、より感情に近いものだった。
もちろん、事業としての視点も持っていた。前田さんが現場を見て最初に感じたのは、効率の悪さだったという。注文から提供までの工程、スタッフの動線、作業の役割分担など、個店としては成立していても、チェーンとして展開するには改善の余地が大きかった。
「でも、それは裏を返せば伸びしろがあるということです。3人でやっていることを2人でできるようにするだけで収益性は変わる。磨けば必ず良くなると確信していました。何よりも、これだけ店としての完成度が高いのに広がっていない。それがもったいないと思いました」(前田さん)
この「もったいない」という感覚こそが、資本提携という形で合意する意思決定の核となった。単なる商品開発や期間限定のコラボでは中途半端に終わってしまう。本気できしめんを広めるなら、資本提携して経営レベルで関与するしかないと前田さんは覚悟を決めた。一方で衣笠さんも、この提携の意味を冷静に受け止めている。
次ページが続きます:
【昼はきしめん、夜は居酒屋の「きしめんズズズ」】
