実際、筆者は2000年代から、欧米日韓中の各地で燃料電池に関する国際会議を定期的に取材し、各メーカーの初期試作車の段階から数多くの燃料電池車に試乗してきた中で、“死の谷”の現場感を味わってきた。
ここで、時計の針を少し戻そう。特に印象深いのは、国が「水素元年」と呼び燃料電池車を含めた水素社会の実現を強く打ち出した2015年だった。
それまで民間での水素活用は家庭用エネファームなどに限定されてきたが、トヨタ「MIRAI」の量産をきっかけに、ホンダも「クラリティ FUEL CELL」を発売するなど、乗用車市場での燃料電池車拡大に期待が高まった時期だ。
「鶏が先か、卵が先か?」という観点から、国が民間を支援する形で水素インフラの拡充を進めるも、主な需要は官公庁向けで、個人ユースでの広がりは限定的という流れがしばらく続く。
さらに2010年代以降は、燃料電池車を取り巻く環境に大きな変化が起こる。まずは、ESG投資だ。
ESG投資とは、財務情報だけではなく、環境・社会性・ガバナンスを重視する投資のことだが、グローバルでESG投資が拡大する中で、次世代環境車への投資は燃料電池車よりもEVが優先されるようになる。
さらに、2022年に起きたロシアのウクライナ侵攻によって、グローバルでのエネルギー安全保障のあり方が一変し、欧米中の間で水素の争奪戦が起こった。
「水素ファクトリー」を立ち上げたトヨタ
そうした中、トヨタは静岡県裾野市のトヨタ自動車東富士研究所で2023年6月、次世代技術を具体的に紹介する報道陣向けイベント「トヨタテクニカルワークショップ」を実施している。
その中で中嶋裕樹副社長は、燃料電池について「商用車最優先」の基本方針を強調。同年7月1日付けの組織改正により、燃料電池と水素関連商品を専任とする「水素ファクトリー」を立ち上げた。
では、現時点ではトヨタの水素戦略はどうなっているのか。



















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