「絶滅危惧種」のウナギ、成長ホルモンや抗生剤などの薬を使わない「無薬養鰻」に取り組む大分県の中小企業
取締役であり、鰻を育てる「鰻師」の加藤尚武氏は次のように話す。
「鰻はしゃべれないので、体調を食べ方、泳ぎ方、池のにおいなどのサインから読み取らなければならない。感じ取れるようになるまで、トライアンドエラーを繰り返した。今も生活の中に鰻がいる感じだ。冗談でよく、『鰻のサインはキャッチできるが家族のは……』などと言っている(笑)」(加藤氏)

同氏によれば、病気の原因は食べ過ぎとストレス。人間と同じだ。養殖では早く成長させようと、餌をやり過ぎてしまう。それが病気につながるのだ。
加藤氏は山田氏の大学ラグビーの先輩。大学卒業後、新事業の養鰻のために入社した。同業他社で修行し、養鰻を一から学んだという。
「今考えると、素人だったからこそ、薬をやめることにも抵抗を感じなかった。また素人だから、うまくいかないときも、同業他社のプロに意見を聞きに行くことができた」(加藤氏)
山田氏も振り返る。
「技術とか特別な何かがあるわけではなく、真剣に取り組んだ結果だと考えている。また無薬養鰻を始めた先代が、数億円の損失が出ても諦めず現場に任せたことも、成功につながった」(山田氏)
「安心して鰻が食べられる未来、日本の食文化を守る」
国とともに進めている人工孵化、完全養殖も、無薬養鰻に続く第2の挑戦として、同じ情熱をもって取り組んでいる。人工孵化には民間養鰻業者で初めて成功。オスとメスを人為的に性成熟させ、人工授精、産卵、孵化、育てて蒲焼にするまでの過程が実現した。
そして仔魚の生存率を上げる餌の種類、餌のやり方も明らかになってきている。あとは商業化を目指し、生存率のさらなる向上や、コストを下げることなどが課題だ。
人工孵化やその先の完全養殖が成功するとどうなるのか。
「『鰻が安くなる』とはわかりやすくキャッチーなのでよく言われるが、それが正解なのかは疑問だ。長年の研究費やランニングコストは簡単に試算できるようなものではない。それよりは、安心して鰻が食べられる未来、日本の食文化を守ること、それを目標にしたい」(山田氏)
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