「絶滅危惧種」のウナギ、成長ホルモンや抗生剤などの薬を使わない「無薬養鰻」に取り組む大分県の中小企業
しかしその状況にも少し光がさしてきた。2024年7月、水産庁はこれまでの研究成果を発表。その中には、餌の種類等、仔魚の生存率を上げる有効な手段も含まれる。2050年までに、アンギラジャポニカ等の養殖に使われるシラスウナギを人工孵化率100%にすることを目標とした。
実用化へのさらなる課題はコストダウンだ。現時点では人工孵化のシラスウナギにかかるコストを1尾あたり1800円程度と見積もる。2016年時点で4万円以上だったところ、天然シラスウナギの仕入れ価格(約180〜600円)と近づいてきている。
山田水産の成果、業界初めての無薬養鰻
今回、2022年から国の研究に参画してきた大分県の山田水産に、その役割や狙いを聞いた。同社は2018年より国からの依頼でシラスウナギの育成に携わり、2020年から独自に人工孵化・完全養殖の研究を開始している。


「鰻の稚魚の問題は長らく解決されないままでいる。取り組もうと思ったのは養鰻業者としての使命感。そして、大企業ができないことに、中小企業こそが挑戦しなければと考えた」(山田水産代表取締役の山田信太郎氏)
同社は1973年に鮮魚運搬の企業として設立。その後ししゃもなどの鮮魚加工を事業とし、1997年から養鰻業に参入した。大きな特徴が、成長ホルモンや抗生剤などの薬を使わない「無薬養鰻」と、その鰻を自社で加工して販売する、自社一貫体制だ。グループ会社も含め、約1000トンの鰻を生産している。
とくに無薬養鰻は、業界で初めての成果。挑戦の理由は「おいしさの追求」だという。
「なるべく薬品を使わず、自然に近い状態で育てたものが求められる時代になるというのは、養殖をスタートした当時から考えていたこと。そして鰻は病気になると餌を食べなくなる。そして、餌を食べない期間があればあるほど、品質が下がってしまう。薬をやらないというのは、簡単に言えば病気にしないということだ。健康な鰻を育てるにはどうしたらよいか、それが始まりだった」(山田氏)
新規参入であり、いわば「素人」だったため、同業他社からは「成功するわけがない」と見られていた。
そして実際、苦労も並大抵ではなかった。養鰻場に住み込み、24時間体制で管理していても半分近くが死んでしまう。数億円の損失が出たという。
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