ドルトン東京学園、暗記中心の受験対策と一線画す「異色の数学」で生徒に変化 「おもしろい授業をするのがいい先生」が原動力

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教科書には「マイナス×マイナス=プラス」という説明が載っている。一般的には、それを教員が説明して、生徒はそれが理解できても理解できなくても「マイナス×マイナス=プラス」だと暗記する。「なぜなのか?」と考えなくても、それでテストのときには点数を取ることができる。

にもかかわらず、なぜ八島氏は生徒たちに議論させるのか。それも、3時間もの時間を割いて、である。その疑問に彼女は、「教わるのと考えるのでは、それ以降の数学への向き合い方が変わってくるからです」と答えた。そして、続けた。

「一言でいえば、教えてしまうと教えてもらうのを待つ生徒になります。しかし考えるおもしろさを知れば、教わるのを待たずに自分で考えるようになるのではないかと思います。教えてもらうのを待つのは考えることを放棄しているのと同じで、それでは学問のそもそものおもしろさが半減してしまうと思います。数学のテストはできるかもしれませんが、それ以外の未知の問題に出会ったときに試行錯誤する力、疑問を抱く力、抱いた疑問を探究する力は育ちません」

ドルトン東京学園に入学してくる生徒の多くも、受験勉強を経験してきている。覚えた公式や解法パターンで問題に向き合う受験に役立つ暗記数学のテクニックを身につけている。だからこそ入学して間もない時期に、考えてもらう授業を行うのだという。「自分の頭で考えることを放棄しないでね、というメッセージも込めています」と八島氏は言う。

その議論の内容や様子は、クラスによっても違ってくる。その違いによって、クラスごとの授業の進め方を変えたり工夫したりもするのだという。教員の目は、あくまでも目の前の生徒を向いている。

といっても、3時間もかけて議論する授業が毎回行われているわけではない。ドルトン東京学園の授業も学習指導要領を土台に組まれているので、それでは授業時間が足りなくなる。それでも、ドルトン東京学園の教員は「考えさせる授業」に時間を割いている。そうなると授業中に練習問題までやるには時間が足りなくなる。「授業できちんと概念を理解してもらい、それを踏まえた練習問題は、各自にある程度は委ねることになります」と八島氏。

「私だったらこう考える」という答えが求められる

同じく数学を教えている師岡洋輔氏の話も聞いた。「求められた答えを書くのではなく、『私だったらこう考える』という答えが、ドルトン東京学園では求められます」と、説明する。入試では、「求められた答え」でなければ点数はもらえない。だからこそ、多くの学校では「求められた答え」に早くたどりつくための指導になりがちで、暗記数学優先になってしまうのだ。

ドルトン東京学園の「私だったらこう考える」を象徴する存在がレポートである。ほかの学校ではテストになるのかもしれないが、ドルトン東京学園の数学では、課題についてレポートを提出することになっている。テスト時間のように決められた短い時間の中で答えるのではなく、数日間の長い時間をかけて考え、答えるようになっている。

答え方に決まりはないし、答えも1つではない。「私だったらこう考える」が反映されていれば、ひとつの正解にたどりついていなくても評価される。中には、エクセルで計算したデータをレポートに貼り付けてくる生徒もいた。そこには、「すべて、このプリントに収まるようにプリントしたら少し小さな字になってしまいました。見づらくなってしまいましたが、ご容赦ください」というただし書まで添えてあった。

「ほかの学校でも、考えさせることを重視してはいます」と、師岡氏は言った。さらに続ける。

「本校は中高一貫で6年間を通しての授業ができるので、数学的な計算技能を身につけていくことはもちろん、数学的に考える力もじっくりと育てていくことができます」

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