「シカを家族で解体」横浜の住宅街で野性的生活 都会の住宅街でも自分の力で暮らす家族の日常

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季節ごとに斜面の木にやってくるオナガやメジロなどの野鳥や、広い空にかかる月も、この家の思いがけない特典だった。

「今頃いいねって言ってもダメなんだからね。あなたは、はじめ反対したんだから」と文祥は、いつまでも意地が悪いことを言う。

シカを解体し、食べる

ゲタの家にウッドデッキが完成し、動物を解体するスペースができた頃には、山仲間の車で殺された鹿がそのまま運び込まれるようになった。

(イラスト:『はっとりさんちの野性な毎日』より)

野生肉を保存するため、外置き用の冷凍庫を買ったが、鹿が数頭獲れるとすべてを保管することはできない。近所の友人らに解体から肉の持ち帰りまで、助けを求める。〈鹿が獲れました、欲しい人集まってください〉と一斉メールをすると、鹿肉ファン、 医学部を目指すので勉強のために解体したいという人、毛皮が欲しい人……色々な人が集まってくる。

解体に必要なのは、よく切れるナイフ、まな板、消毒液、バット、キッチンタオル、ビニール袋など。柿の木から滑車で鹿を吊り下げ、毛皮を剝(は)ぎ、前脚、 後脚を外し、背ロースなどのブロックを切り離していく。ここまでは文祥にお願いして、私たちは精肉作業を行う。

はっとりさんちの野性な毎日 (河出文庫 は 32-1)
『はっとりさんちの野性な毎日』(河出文庫)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

筋肉の構造がわかってくると、ナイフをどのように使ったら肉をなるべく傷つけずに骨から外すことができるのか、考えながら作業するようになる。刃物は優れた道具だなと、毎回思う。

背骨周辺の背ロース、内ロースや、モモ肉はやわらかい赤身の肉で、さっと焼いたり、弱火でローストして食べるとおいしい。脂がのっているムネ肉やスネ肉は圧力鍋でしっかり煮ると、固いスジがとろけるようにやわらかくなり、味わい深い。鹿肉上級者は首の肉も喜んでくれる。

解体の人手が足りないときに、頼りになるのは子供たちだ。まな板の上に置かれた蹄付きの脚を見て「またこれかー」と言いながら、ナイフで切り分けていく。その流れでミンサーにかけて挽肉を作り餃子やハンバーグを作ると、あっという間にかなりの肉を平らげてしまう。

あとにはわずかに肉を残した足の骨が残り、細いロープでベランダにぶら下げておくとスズメがついばみにやってくる。

服部 小雪 イラストレーター

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はっとり こゆき

1969年生まれ。イラストレーター。女子美術大学卒(美術学科洋画専攻)。在学中はワンダーフォーゲル部に所属。夫、二男、一女と横浜に在住。家族、ニワトリのいる日常をテーマにしている。

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