「令和のコメ騒動」不足解消でも楽観できない事情 人口減少社会で「農地改革」が進まない本当の理由

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この法律には罰則規定もあり、出荷販売業者や輸入業者、生産業者等に対して食料確保の「計画」を届け出る指示を出すことができる。届け出の指示に従わなかった場合には、罰金が科せられ、さらに立ち会い検査等によって特定食料等の在庫を把握することも可能だ。報告の拒否や拒否の報告をした場合にも過料が適用されることになっている。

罰則規定のある法律になったことで、有事の際の食料不足をコントロールする効果を発揮できそうだが、実際にそういう事態になってみないとわからない。重要なことは、これまで輸入だけで何とかなるとしていた政府が、ロシア・ウクライナ戦争などの地政学リスクや気候変動などに直面したことで、海外から食料や肥料、エネルギーが調達できない可能性が出てきたこと。

さらに、海外から輸入できたとしても、国内にすさまじいインフレをもたらす「超円安」が発生したときには、これまでのシステムでは国民を飢えさせてしまうことに気付いたことには高く評価すべきなのかもしれない。

国際的には高い評価の日本の食料安保?

日本の農業政策は、海外に比べれば、確かに食料自給率は低いものの、今回の「米騒動」のような事態はほとんどこれまでなかった。例えば、英誌エコノミストの調査部門であるエコノミスト・インパクトが2022年9月に発表した「食料安全保障指数(GFSI)」によると、日本は調査対象の113カ国の中で6位となっている。

食料安全保障指数は、食料安保という観点から価格の手頃さ、物理的な入手のしやすさ、品質・安全性、持続可能性、適応性といった項目で数値化したものだ。そのランキングを見ると、次のようになっている。

1、フィンランド
2、アイルランド
3、ノルウェー
4、フランス
5、オランダ
6、日本
7、スウェーデン
8、カナダ

日本の食料安保は、国際的には非常に高いレベルにあると言っていい。日本の農業政策は食料自給率の低さばかりがクローズアップされてしまうが、そういう意味ではエネルギー政策に似たものがある。日本のエネルギーは、ほぼ海外に依存しているわけだが、一時的なものを覗いて、エネルギー不足に陥ったことはほとんどない。

とはいえ、近年のインフレは農業生産にも大きな影響を与えている、例えば「農業物価統計指数」よると、2023年平均の「肥料」の価格指数は147.0(2020年=100)と約5割上昇しており、家畜の餌である飼料も145.8(同)となり5割近く上昇している(日本農業新聞「23年資材価格が過去最高 飼・肥料3年で1.5倍 農産物へ転嫁限定的」2024年1月31日)。

そんな中で農家の出荷価格は野菜が2023年の平均で113.3(生産者価格指数、2020年=100)と1割の上昇にとどまっている。農産物全体でも107.8にとどまっており、コストを価格転嫁できていないのが現状だ。

人口減少や流動性の少ない農地売買の実態を考えると、日本の農業生産の現場は、持続可能な事業というにはほど遠い。政治家は簡単に世襲が可能だが、日本の農家は世襲すら許されない。それが、現在の日本の農業現場と言っていいだろう。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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