ロレックスがこれほどの信頼を勝ち取った経緯 防水能力を証明するためドーバー海峡を横断

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「後で後悔するかもしれない」という購入における後悔の可能性は、製品やサービスの購入を検討する際に一般的な不安です。このような不安を解消するためには、製品の価値と満足度を高め、自信を持って購入してもらう環境を提供することが重要です。

ロレックスの優れた不安対策

まず、製品の品質と性能に関する詳細な情報を提供します。これには、製品の優れた特性、革新的な機能、耐久性、効率性などが含まれます。例えば、今でこそ高級時計の最高峰の地位を維持しているロレックスですが、ロレックスが今の地位を築けたのも、創業者であるハンス・ウイルスドルフ(1881〜1960)の優れた不安対策のおかげなのです。このため、ロレックスの不安対策方法は、現在でも教材として活用されているほどです。

20世紀初頭、現在のアップルウォッチのように懐中時計を小さくした腕時計をしている男性が現れました。ところが、懐中時計を単に小さくしたものなので、とても壊れやすかったのです。そこでウイルスドルフは設計を根本から見直して、製作した防水の時計ケースが「オイスターケース」と言われるものでした。1つの金属の塊から削り出し、牡蠣の殻のようにぴったり閉じているこの時計はオイスターと名付けられました。こうして1926年、世界初の防水時計が完成しました。

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しかし、これまでの常識を覆す新製品なので、それまで懐中時計を使っていた人たちは「防水といっても、水が入ったらどうするの?」という不安を抱きました。そこで、ウルスドルフが考えた不安対策が実際に防水を証明することです。

当時、余暇活動としてスポーツが注目されていました。そこで、ウイルスドルフは、メルセデス・グライツという女性の秘書にオイスターを着用させて、イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡を水泳で横断してもらいました。彼女はイギリス人女性として初めて海峡横断に成功したのです。

現在では、海のエベレストといわれる有名なオープンスイマーの聖地になりましたが、当時はドーバー海峡の横断に挑戦する人はほとんどいなかったため、グライツは一躍人気者となりました。

最も過酷な条件下で10時間以上水に浸かっていたにもかかわらず、その完璧な時を刻む時計は壊れることなく、その後の検査でもわずかな腐食や結露も見られませんでした。そのことをウィルスドルフは、ロンドンの新聞『デイリー・メール』の一面に全面広告を掲載し、顧客の不安を払拭したのです。

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