「インドカレー屋」実はネパール人運営が多い理由 産業が育たず、貧困で世界有数の「出稼ぎ国家」に

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しかし、ネパールから日本にやってきて、厳しい状況に置かれる人もいる。インネパ増加の背景の一つであるブローカーをどう選ぶかによって、日本国内で厳しい暮らしを強いられる現状もあるのだ。

「経営者のネパール人から厳しい搾取を受けている人もいます。中には、月10万円以下で働く人もいますし、その中には社会保険の存在さえ知らされていない人も多くいる。怪我や病気をしたときに、病院で高額の支払いを求められる場合もあるのです」

その環境に耐えきれず、逃げ出す人や、アルコールに依存する人もいる。ちなみに、日本は諸外国に比べるときわめてアルコールの規制が緩いため、アルコール依存になるネパール人も多いという。

このようなブローカーの「負の側面」も説明しつつ、一方で室橋さんが強調するのは、ブローカーの存在は、ただ否定できるものではない、ということだ。

「ブローカーというと、いかにも悪そうなイメージを持ちがちです。でも、実際のところは、その存在のおかげで日本でそこそこ稼げている人もいる。だからブローカーに感謝する人がいることも確かです。中には、親戚に呼んでもらっていることもあり、その場合は本人たちにとってもブローカーという感じは薄くなるんですよ」

実際、日本にやってきて大きな成功を掴んだネパール人も多くいる。中にはカレー屋ではなく、普通に日本の飲食店の一つとして、他店と競争をして出店を伸ばすネパール人もいるという。こうした人は、ブローカーの存在を、肯定的に捉えるわけだ。

また、室橋さん自体、インネパの増加について、否定的な意見だけを持っているわけではない。

「エスニック好きな日本人の間では、インネパという言葉がどこか侮蔑的に使われることもあります。本物のインド料理ではないものを、それもネパール人が作っているという意味で否定的に捉えられるんです。でも、僕はインネパには、ネパールの人が持つ「しなやかさ」や「たくましさ」が現れていると思います。日本という知らない国に来て、現地に適応するような料理をうまく作り上げた、そこは彼らのすごいところだと思います。コピペだと言われようが、日本人のニーズを掴み取ったのはすごいと思うんです」

実際、長引いたデフレの中、牛丼屋やファーストフードレストランが高度に発達した日本で、インネパの料理は、私たちの安い昼食の選択肢として、十分に戦っている。ここにこそ、インネパの人たちの「しなやかさ」や「たくましさ」がある。

そんなネパール人だからだろうか。中にはカレー屋を変え、居酒屋や「ガチ」のネパール料理店を出店する例も近年では増えている。今後もこうした業態転換は見込まれるだろう、と室橋さんは言う。

世界中がインネパに!?

増えすぎたこともあり、日本でのインネパの数は頭打ちで、欧米に進出するネパール人もいるらしい。

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「アメリカのカリフォルニアには『元日本在住だったネパール人の会』があるそうです。それだけの人数が日本から出ていっているんだと驚きました。また、カナダにもネパール人が増えていて、カレー屋を開業する人もいるそうです。もしかすると世界中にインネパが生まれるかもしれません」

ただ、業態転換や他国への流出が増える中、やはりネパール人の間での日本の人気は依然として高いと室橋さんは言う。

「話を聞いてみると、日本は安心な国だ、と思っているネパール人が多い。それに病院にしても、役所にしても、制度がしっかりしていると思っているようです」

ネパール人が作り上げたインネパは、日本で、そして世界で今後も生き延び続けていくのかもしれない(後編《700円で美味しい「インネパ」背後にある壮絶な貧困に続きます)。

谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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