航空専門医がいない空自に戦闘機開発はできない やる気のある医官が次々に辞める自衛隊の内情

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冒頭に述べたように防衛省や空自、三菱重工の開発関係者は自分たちが世界先端の戦闘機は国内で十分に開発できると豪語してきた。航空医学に関するリソースがない状態で、そのような主張をすること自体、現実が見えていない。三菱重工がスペースジェット旅客機(旧MRJ)の開発に失敗したのもそのような過剰な自信が原因であろう。

また海自や陸自でも航空機の開発をしているが、同様に航空医学の観点からの能力は低いといっていい。実は海自の潜水医学の分野においても同様に専門医がほとんどいない。これでまともな潜水艦や救難システムを開発し、潜水医学を発展させることができるだろうか。

このように防衛省、自衛隊の衛生は極めて貧弱である。筆者は自衛隊の衛生組織は統合して第4の軍種として独立させ、その陣容を立て直して強化すべきだと考える。アメリカ軍、イスラエル軍、かつての南アフリカ軍など、実戦を多く経験した国の軍隊は衛生の分厚い基盤を有している。

厳しく言えば、衛生を軽視している自衛隊は戦争で隊員が死傷することを想定していないといってよいだろう。

能力があり、やる気のある医官が次々と辞めている

いわゆる防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)には衛生の強化がうたわれており、衛生機能の変革(国家防衛戦略)や防衛医科大学校を含めた自衛隊衛生の総力を結集できる態勢を構築、研究の強化(防衛力整備計画)を掲げるが、その実現は容易ではない。

能力があり、やる気のある医官が次々と辞めているからだ。筆者の取材では2023年度はすでに空自医官の中途退職は8名、年度末に少なくとも3名が退職した。定年退職を含めると少なくとも13名が年度内に退職した。

対してここ数年、防衛医大卒業後、空自医官になるのは10名程度で医官は減少している。すでに空自は脳外科、心臓血管外科はゼロの壊滅状態だ。

いくら防衛費を増やそうと戦車や護衛艦を並べようと、このように衛生基盤を軽視しているのでは仮想敵からその実力を見透かされて、抑止力としても機能しないだろう。また航空機に限らず、実戦を想定した優秀な装備を国内開発すること自体が困難だ。

最大の問題は衛生軽視が自衛隊の組織文化となっており、その文化を変えることが大変難しいことにある。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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