がん死した男が名乗った逃亡50年「桐島聡」の人生 警視庁公安部は死亡した男性のDNA鑑定を急ぐ

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警察庁関係者によると、男は今月中旬、路上にうずくまっているところを通行人の男性に保護され、その後、自ら救急車を呼んで入院。症状は末期の胃がんだった。

健康保険証は持っておらず、「内田洋(うちだ・ひろし)」と名乗り自由診療で入院していたが、1月29日の朝、入院先の病院で死亡が確認されたという。

この男が本名として明かした桐島聡――桐島聡容疑者(70)は、1970年代に数々の企業爆弾テロ事件に関与した疑いがあり、警察当局が重要指名手配して、この半世紀行方を追ってきた人物である。

誰もが一度は目にしたことがあるかもしれない、黒縁眼鏡のある男性の写真。全国各地の駅などに張り出されている指名手配ポスターに、桐島容疑者の顔写真が掲載されている。

警察庁によると桐島容疑者は過激派「東アジア反日武装戦線『さそり』」のメンバーで、1974年から1975年にかけて発生した連続企業爆破事件の1つにかかわっていたとされ、爆発物取締罰則違反の罪で警察庁が重要指名手配し、行方を追っていた。

企業爆破事件では警察官も重傷

元警視庁公安部員の勝丸円覚さんは、この人物の名前を報道で聞いた際に複雑な思いを抱いたという。

「私が公安部員に登用される際に受講した講習を通じて、桐島容疑者のことは熟知していた。一連の企業爆破事件では警察官が重傷を負った事件もあり、在職中は顔、名前に加えて警察が持つ非公開情報を脳裏に刻み込み、発見次第いつでも身柄確保できるよう構えていた」

重要指名手配がかかっていた桐島容疑者。警察当局もその行方を半世紀にわたり追い続けてきた。

勝丸さんによると、桐島容疑者など逃亡中の過激派メンバーの行方を追っていたのは、警視庁公安部公安一課に特別に設けられた「担当班」の公安捜査官たちだ。現在では規模は縮小されているが、50年前から警視級のベテラン管理官のもと、追及捜査にあたっているという。

今回、桐島と名乗る男のもとに急行し、事情聴取したのは、この「担当班」の公安捜査官たちだった。

「男の身元の確認を進めるが、前歴がないため指紋からは特定が難しく、DNA鑑定を行うことになった。親族から試料の提供を受け、かつ男からDNA採取の許可を得ねばならず、相当時間がかかる見込みだった」(勝丸さん)

しかし事態は急変し、男は死亡する。勝丸さんは「捜査官たちは遺体の口腔内からDNA試料を採取することが可能になり、鑑定がスピードアップするのではないか」と推測する。

ところで、桐島容疑者はどんな人物だったのか。

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