台湾総統選当日を迎えた。昨年11月に『台湾のアイデンティティ――「中国」との相克の戦後史』(文春新書)を出版した家永真幸教授(東京女子大)が「中国との距離感」という視点から注目点や意義を解説する。
今日(2024年1月13日)、台湾の総統選挙および立法委員(国会議員)選挙の投開票が行われる。
今回の総統選挙には、与党・民主進歩党(以下、民進党)から頼清徳氏、最大野党の中国国民党(国民党)から侯友宜氏、第3政党の台湾民衆党(民衆党)から柯文哲氏がそれぞれ立候補している。国民党と民衆党はともに民進党政権の打倒を訴えているが、昨年11月に総統候補者の一本化を試みて失敗したので、票が割れるのは避けられない。
一方、民進党は仮に総統選で勝利しても、立法委員選で単独過半数を失えば「ねじれ」が生じ、思うような政策を実現できなくなる。そのため、民進党は総統選の勝利に加え、立法院の過半数も与えてくれるよう有権者に強く訴えてきた。
中国との距離感も顕著な対立軸
総統選や立法委員選の争点は決して中国との関係性だけではなく、台湾の人びとの経済や生活、民族的な感情などの多岐にわたる。ただ、今回の選挙戦の中で、「中国との距離感」がひとつの顕著な対立軸になっているのも間違いない。ここでは、そのような角度から、今回の選挙の注目点や意義について考えてみる。
今回の選挙キャンペーンにおいて、民進党の頼清徳陣営は「正しい道を歩み、正しい人を選ぼう」とのキャッチコピーを前面に押し出した。投票日も差し迫った1月初旬には、民進党が新たな選挙CMを公開。自動車を運転する蔡英文総統が助手席に座っていた頼氏に後の運転を任せて自分は下りるという内容だ。ネットやテレビで大量に流し、終盤の支持固めを行った。
筆者は同時期に台北に入り、街角を観察してきた。公園や飲食店ではどこでも老若男女が和やかに過ごしていた。物乞いをする人や路上生活者の姿も目にしたので、すべての人が満ち足りた生活ができているとは決して言えないだろう。ただ、社会全体として台湾はおおむね平和で秩序だっており、蔡英文政権を引き継ぐという頼清徳陣営のメッセージには強いアピール力があったと思われる。
一方、民進党陣営は別の宣伝動画で一人ひとりの幸せな暮らしはそれぞれの「家のドア」によって守られている、というメッセージを打ち出した。日本では生命保険のCMで目にするような感傷的なトーンの作品だ。
これは蔡英文政権による国防政策およびアメリカとの軍事関係の強化への支持を訴える趣旨だと考えられる。その前提となっているのは、中華人民共和国の中国共産党(以下、共産党)政権が、中国大陸との統一のために台湾に対して軍事力を行使するかもしれないという恐怖感である。
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