アメリカの長期金利上昇はまだまだ続きそうだ 原油価格の高止まりだけが懸念要因ではない

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また原油先物価格は直近こそ利益確定売りで下落したものの、今後も高止まりが予想されることなどから、再びインフレ圧力の高まりを懸念する声も消えない。

「景気が減速すれば、ガソリンの消費も落ちるので、原油価格については心配はしなくてもいい」という予測もあるが、それは甘すぎる。サウジアラビアが現在の減産方針を変更しない限り、需給は緩まず、大きく下落することはないだろう。

それどころか、世界ではこのままだと暖房需要が大幅に増加する10~12月期に、大幅な供給不足に陥る可能性が高い。しかも、ここへ来てイスラム組織のハマスによるイスラエルの攻撃をきっかけに、原油先物の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は9日には前日比5%超上昇、1バレル=90ドルに迫る局面があった。

ハマスとイスラエルの戦闘だけにとどまらず、イランやサウジを巻き込む形で事態が悪化すれば、需給バランスそのものにも影響を及ぼすとの懸念から1バレル=100ドルを超える展開となることも、十分にありうる。このように、景気の堅調に、インフレの再進行や中東情勢の緊迫化などで金利上昇圧力が高まれば、事態はより深刻なものになりかねない。

金利上昇をもたらす材料は、まだいくらでもある

一方、賃金上昇圧力も、この先一段と強まる可能性がある。実はアメリカでは、景気や雇用が好調なのに、賃金上昇は比較的穏やかなものにとどまってきた。

これは単に、景気や雇用の好調さが賃金上昇に反映されるまでに、思った以上の時間を要していただけなのかもしれない。景気が好調で、企業が利益を積み上げている状況下で、賃金上昇圧力が強まるのは自然な流れである。むしろ、賃金が正当に上昇しないのは、どこかに問題がある可能性が高いと見るべきだろう。

9月から続いている全米自動車労働組合(UAW)と、自動車大手企業の労使交渉が難航、ストが続いていることは、こうした点からみれば妥当な結果かもしれない。経営が順調ないっぽう、インフレが進んでいるのだから、労働者から賃上げ要求が強まることは当然だ。

今回の労使交渉がどのあたりで決着するのかは何とも言えない。だが、少なくとも労働者が要求する30%超の賃上げが実現しない限り、合意に至る可能性は低い。そして、もし自動車業界がそれだけの賃上げを勝ち取れば、それをきっかけに他の業界にもこうした動きが波及していくことは必至と思われる。賃金上昇圧力は、むしろこれから本格的に強まり、それが改めてインフレを後押しすることになるのではないか。

また、債券の需給悪化要因も指摘されるところだ。同国の財政赤字拡大は顕著で、国債発行額が増加するいっぽうで、FRBは量的縮小政策(QT)を進め、国債保有額を徐々に減らしており、債券市場が供給過剰の状態にあることも、引き続き金利の大きな押し上げ要因になる。このように、金利上昇を後押しするような材料には事欠かないというのが、現在の状況なのだ。

もし、この先も金利の上昇が続けばどうなるだろうか。個人消費は急速に伸び悩んでくるだろうし、借り入れコストが急増、企業業績の悪化も避けられない。

もちろん、景気が大幅に悪化してくればインフレ圧力も後退、FRBが慌てて金融政策を変更、早いペースで利下げを進めるようになることも十分にありうる。だが、現時点はそのような状況には至っていない。少なくともFRBが追加利上げを行いそうな、次回10月31日-11月1日のFOMCまでは、金利の上昇が続くと見ておいたほうがよい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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