定年後の必要生活費がガクンと減る安心な理由 現役時の収入確保は困難だが出費も同時に減少

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さらに、教育費や住宅費以外の項目に関しても、支出額は定年前後以降に緩やかに減少する。前掲の図表1‒3では細かな支出項目は「そのほか」の項目にまとめて記載しているが、支出額の増減を小項目の内訳で探っていくと、外食費、洋服費、自動車等関係費、通信費、こづかいなどの項目で特に減少する。子供が独立し世帯人数が減少することなどから、幅広い項目で費用が縮減することがわかる。

多くが心配する医療費負担は大きくない

高齢期の家計を展望したとき、多くの人が不安に駆られるのはなんといっても保健医療費である。しかし、実際に高齢期の家計簿をみると、65歳から74歳において平均月1.7万円となっており、保健医療に関する支出はそれほど多くはない。

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重度の生活習慣病を患い継続的に医療費が発生する場合や、突発的な病気の後遺症によって長期の介護を必要とする場合など、高齢期のリスクについてそのすべてに対応することは難しいが、多くの場合は高額療養費制度など日本の医療保険制度によって必要な医療は低負担で受けることができるようになっている。

最後に、ここまでのデータはすべて二人以上世帯に関するものであった。家計調査においては、データの制約上、単身世帯の家計支出は35歳以上60歳未満と、60歳以上の世帯でしかとれないが、これをみても、やはり現役時代の月18.9万円から60歳以上で月14.8万円へと減少し、定年後にはそこまでのお金はかからないことがわかる。

高齢になると家計支出額が大きく減少する。このことは多くの人がぼんやりと認識していると思われるが、実際にこれほどまでに支出が減るということを多くの人はあまりわかっていないのではないか。40代や50代で現在の支出水準がこれからも続いていくような感覚を持ち、将来への不安を募らせる人も少なくないが、実際には高齢期の家計に過度な不安を抱く必要はないと考えられる。

坂本 貴志 リクルートワークス研究所研究員・アナリスト

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さかもと たかし / Takashi Sakamoto

1985年生まれ。リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。著書に『統計で考える働き方の未来――高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)がある。

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