[Profile]ぶれいでぃ・みかこ 1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英ブライトン在住。ライター、コラムニスト。著書に『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』などがある。
著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出(いだ)す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。
ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者の立場で想像する作業」すなわち「他者の靴を履く」試みでもあり、その点で、共鳴する相手やかわいそうに思う相手に向けて心の内側から湧いてくる「シンパシー」と異なる。そして、能力であるエンパシーは、訓練によって向上させることができる。
本書では、この抽象的な概念が身近なトピックを通じて語られ、骨太なテーマへと昇華されている。エンパシーはどのようにすれば向上させられるのか、優秀な女性指導者とエンパシーに関係はあるのか、サイコパスとエンパシーの関係についてなど、話題は多岐にわたる。
われわれが日々の生活の中で感じていることと社会の課題とは地続きであり、相似形であると実感させてくれる。ビジネスの視点でも示唆を得られるし、何のために本を読むのかという問いの答えにも直結しそうだ。
最も慎重に議論されているのが、エンパシーの「闇落ち」に関することだ。エンパシーという「スキル」は後天的に獲得できる。だが、使い方次第でその作用はよいものにも悪いものにもなるという。
例えば、エンパシーが行きすぎると「他者の靴を履くこと」と「他者の顔色を窺(うかが)うこと」が紙一重になり、混ざり合ってしまう。とくに上下関係におけるケースは興味深い。
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