クラシック界には、一般に理解されにくい専門用語が存在する。その1つが「ロシア・ピアニズム」だ。クラシック音楽の盛んなほかの国や地域にはこれに相当する言葉はない。ロシアのピアノ界を特別視する際に使われる摩訶不思議な言葉なのだ。
そのロシア・ピアニズムを象徴するピアニストの一人が、エリソ・ヴィルサラーゼだ。モスクワ音楽院大学院の彼女のクラスで学ぶピアニスト、松田華音(かのん)はこう語る。
「ロシア・ピアニズムだからここが違う、とはあまり感じません。先生と弟子の伝統的な関係が続いているのがロシア・ピアノスクールで、その原点にアントン・ルービンシュタイン(1829~94)やフランツ・リスト(1811~86)がいることを示す言葉のように思います。多くのすばらしいピアニストを輩出するロシアには、ピアノ教育の伝統がよい形で残っているのではないでしょうか」
確かにロシア・ピアニズムの逸材と称されるリヒテルやギレリス、アシュケナージなどの名ピアニストたちも、それぞれまったく個性の違う才能だ。ロシア・ピアニズムとは、ロシアに伝統的に伝わる優れた教育システムのことなのだろう。その意味では、6歳でロシアに渡り、18歳で名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからCDデビューを果たした松田もまた、ロシア・ピアニズムの新たな1ページにその名を刻む存在だ。
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