公的年金保険は、何のためにあるのか。大学の講義でこのテーマを考えるとき、公的年金保険が存在せず、現役時代からの貯蓄だけで老後に備えることを想定してみる。例えば、65歳で退職し、老後の生活費を月15万円と設定した場合、どれほどの貯蓄が必要か。その際、「一般論ではなく、あなた自身が必要とする貯蓄額を計算してほしい」と注文をつけると、学生は戸惑い始める。何歳まで生きるか予想できないため、貯蓄額を計算できないのだ。家や車を買うのとは話が違う。
ここに、公的年金保険の重要な意義がある。この年金は、個々人の長生きのリスクに対応した保険であり、死亡時まで年金給付が保証されている。もしこれがなかったら、75歳まで生きることを想定して貯蓄した人が85歳まで生きた場合、老後の生活費が10年分不足してしまう。人生100年時代では、公的年金保険があるからこそ、「将来長生きをしても大丈夫」という安心感を持つことができる。
ところで金融庁は、6月に人生100年時代に向けて資産形成を促す報告書を発表した。高齢夫婦無職世帯の家計収支の赤字から、退職後30年間生きるには約2000万円の蓄えが必要になるという。報告書によって、公的年金保険への不信感を募らせた人は多い。
筆者が残念に思ったのは、この報告書は今後の給付水準の低下を示唆しているが、前回の財政検証で示され目下進められている、給付水準の維持・向上を図る選択肢に言及していない点だ。
確かに、公的年金保険は、現役人口の減少や平均余命の延びに応じて年金給付の伸びを抑制する、「マクロ経済スライド」を導入している。これにより、年金財政が破綻することはないが、将来世代の給付水準は、現在の高齢世代よりも低下することが予想される。
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