数年前、私はキューバの首都ハバナにいた。米国とキューバの国交が回復する以前のことである。波止場近くのバーで飲んでいると、背中に強い視線を感じた。振り返ると外から警官がじっと見ている。そして私を指差しながらバーに入ってきた。
「ハポン、ハポン(日本、日本)、ハポネス(おまえは日本人だな)」
私のバッグに付いている軍艦旗を指し、スペイン語でまくしたてる。半分くらいしか理解できない。
「おまえは日本海軍か? これは日本海軍の旗だ。なのになぜ、赤と白じゃないんだ」
「俺はOBだ。特殊部隊にいた。だから、目立たないように黒と深緑になっているんだ」
「日本の艦隊が、ハバナに入港しているのか?」
「入港していない。それはともかく、あんたはなぜ日本海軍の旗を知っているんだ」
「当たり前だ。俺は『トラ・トラ・トラ!』のビデオを持っている。毎週1回は見ている」
「そんなに好きなのか」
「最高だ。アメリカ軍が最初から最後までやられっぱなしの映画は、あれだけだ」
「アメリカが嫌いなのか」
私がそう問いかけると、警官は語気を荒らげた。
「嫌いだ! 何でもかんでも自分の価値観を押し付けるのに、どの国もヘラヘラしている。キューバは小さく貧しい国だが、ヘラヘラしない。抵抗しかできないけどな」
そこから話は日本に及んだ。
「でも日本は違う。日本海軍だけがアメリカに攻めに行った。ベトナムもイラクもアメリカまで行ったか? アルカイダはアメリカの民間機にコソコソ乗り込んだだけだ。日本だけが、旗を掲げた大艦隊でハワイまで攻めに行った」
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