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ライフ #非常時の組織論

アメとムチより利く「ありがとう」の一言 過酷な任務において人を動かすには

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「出港よ~い」。出港ラッパが鳴り響くと、岸壁と艦艇をつなぐロープが一斉に解かれた。

1987年8月、私が海上自衛隊に入隊し、4カ月半の教育訓練を終えて初めて配属になった艦隊の出港である。人生初の航海だった。

艦艇は、横須賀港を出港し、浦賀水道航路を南下した。海はないでいたが、艦内で私だけが船酔いをしていた。海士が行くべき厠(かわや)にたどり着けず、近くの幹部用に駆け込んだ。とにかく嘔吐が止まらない。

そのうちに幹部用の厠に海士のいることが知られ、先輩が私を連れ出して延々と文句を言ってきた。そんなことより、艦のどこに行こうが揺れは変わらないし、何をしても酔いが止まらない。しかも、私は最下級の2等海士で、容赦なく仕事や雑用が回ってくる。この状態から逃れるには、海に飛び込むしかなかった。

1週間後、艦艇は伊豆の伊東港沖にいかりを下ろし、私は上陸を許可された。ようやく地面に足を着けたものの、フラフラしている。陸(おか)酔いである。食欲はなかったが、今のうちに何か食べておこうと、海沿いの定食屋に入った。注文を取りに来た割烹着姿のおばさんが、

「何にしますか?」

と私に聞きながら、沖に浮かんでいる艦艇を窓越しに見つけ、厨房に向かって言った。

「お父さん、あんな所に軍艦が泊まっているよ」

「ビール、ください。私は、あれに乗っているんです」

「そうなの。お父さん、この人ね、軍艦に乗っているんだって。何かおいしいもの作ってあげてよ」

小さなグラスに注いだビールを一気に飲むと、食道から胃に流れ込んでいくのがわかった。ビールが全身にしみ渡り、天井を仰ぎながら目をつぶって、両手の小指までがしびれてくるのを感じていた。

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