「彼をしばらく私の手元に置いて、いろいろ挑戦させたい。成果が出せたら、思い切ったポストに引き上げるつもりだ」
台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長は、経営幹部を含む社員とその家族3万人、記者団を前にそう宣言した。1月22日に台北の大型展示場で開かれた尾牙会(旧正月前の忘年イベント)でのことだ。「彼」とはシャープ創業者・早川徳次氏のひ孫。3年前にシャープに入社し、一般社員として法人向けの国内販社に勤務している。
会場には彼の父とおじ、つまり徳次氏の孫二人も招かれた。いずれもシャープで働く50代で、一人はロシア法人の代表、もう一人は液晶パネル事業の課長職だ。3人とも直系子孫ながら経営トップを狙うコースにはない。その3人を郭氏はイベントで何度も紹介し、「創業家なのに特権を求めず、一般社員と同様に働いている。なんと清廉なのか」とたたえると同時に、大抜擢の意思をほのめかした。
郭氏と鴻海は2016年8月、3888億円を投じてシャープを傘下に収めた。現在は郭氏の分身というべき戴正呉氏がシャープ社長を務めるが、戴氏は東証1部復帰を果たした時点で退任する意向。郭氏は「戴氏の後任はできれば日本人」と発言してきた。
社長レースの下馬評に常務クラスや社外人材の名が挙がる中、突如ほのめかされた「創業家回帰」。ひ孫本人は「郭氏のそばで働かないかと言われているのは事実だが、何の実績もない私が役に立つのか……」と戸惑いを隠さない。
意表を突く創業家回帰を郭氏が打ち出したのには意味がある。鴻海にとって、シャープの短期的な黒字化はそう難しくない。組織や取引条件を徹底して見直し、経営のムダを一掃するのはお手の物。たとえば1月中旬、韓国サムスン電子がシャープに対し液晶の供給停止をめぐって損害賠償を申し立てたことが明らかになったが、郭氏によると「供給停止ではなく、納入価格の値上げ交渉をした結果、取引が打ち切りになったのが事実」。経緯や相手を問わず、儲からない契約は例外なく見直すのが鴻海の常識だ。
この記事は有料会員限定です
残り 471文字
