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課長はとても難しいポジションだ。たとえば営業の課長だとちゃんと数字を上げなきゃいけない一方で、部下にはいろいろな経験を積ませなければならない。部下が替わると組織のパフォーマンスが落ちて、次が育つとまた替わって……その繰り返し。ただ、異動がその部下にとっていいチャンスだと思ったら、快く送り出してあげるべきだ。そこで課長が業績を優先してしまうと、組織はすごく狭いスパイラルに入っていく。
三井物産では鉄鋼製品の営業畑が長かったが、最後の10年間は人事・広報マンとして経営陣と直接話す機会も多かった。役員までいっても「社長になれなかった」と悔しそうに辞めていく人もいれば、課長止まりでも「本当に充実していた。会社人生に悔いなし」と去っていく人も見てきた。出世はサラリーマンの最終的な目的になりえないし、生(せい)の充実感を与えてくれるのはそこじゃないんだな、と実感した。
じゃあ具体的に企業の歴史の一部分を担える仕事って何か? と聞かれると、結局は人材育成に尽きるんじゃないか。会社員として価値のある仕事をしたといえるかどうかは、次の世代にきちんとたすきを渡せたかどうかで決まると思う。
僕は小説に専念するために会社を辞めたけど、一番の喜びは自分の育てた若手が今も生き生きと働いてくれていること。結局それしか残らない。どの期に利益をいくら上げた、というようなことは、10年経ったら忘れてしまう。
小説家としてデビューしたのは42歳。作家の保坂和志さんの一読者だったのが、たまたまお会いしたときに執筆を勧められて書き始めた。
それまで三井物産の社員として守られて生きてきた人間だから、最初は作家との付き合いなんかとてもできない、恐ろしい世界に足を踏み入れてしまったと思った。そのうち2つの世界の間で股裂きになっちゃうんじゃないか、と。でも、実際にやってみたらどちらも同じ自分という人間がやっていることだと感じた。
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