書店に行ったら、グレアム・グリーンの『情事の終り』(上岡伸雄訳・新潮文庫)が入り口の棚に平積みになっていた。ホッとする思いがよみがえった。セワしない本の扱いが続く今の状況の中で、こういう本が堂々と市民権を得て棚の一角に座を占める光景は、活字ハングリーの私にはまさに快挙なのだ。並んでいた『地上最後の刑事』(ベン・H・ウィンタース、上野元美訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)と一緒に買って、うれしい思いをかみしめながら飲み屋に向かった。
『情事の終り』は昭和30年(1955年)に『愛の終り』というタイトルで、田中西二郎訳・新潮社で出版されている。5月1日初版で5月5日に3刷となっていて、私が持っているのはその3刷本だ。
とてつもないテーマで、ローマンカトリックであるグリーンにしても、大きな冒険だったと思う。読み終わったときの衝撃は大で、あのときの爆発音はいまだに胸の中で響いている。私がいちばん大切な本を収めてある本棚の、かなり上位(最上位は太宰治と山本周五郎)の位置を占めている。上岡訳は平成26年5月初版で今度が2刷目だ。不覚にも初版時は気がつかなかった。
神が登場人物の一人なので、主人公が人妻と行う不倫は情事の愛になるが、それを大きく“愛”に包含した前訳の意図もよく理解できる。
都庁に勤めているとき、美濃部亮吉知事の秘書をしたことがある。知事が「公害問題などを世界の大都市間で討議しよう」と、「世界大都市会議」を提唱し、有数国の首都を歴訪した。お供をした。ロンドンでは市長が夫人同伴の歓迎パーティを開いてくれた。知事が「婦人たちのお相手は君がしたまえ」と言った。英語力のまったくない私は困惑の極みに達した。幸い英語に強い同僚が同行していたので、その助力を得た。
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