私は原稿を書くのに短いものは手書き、長いものはテープに吹き込み、業者にパソコンで起こしてもらっている。だから、長いものは起こした原稿にCDを添えている。短い長いの区別は、400字詰め原稿用紙15枚を目安にしている。
かつてワープロが使われるようになったとき、作家の中にも率先活用する先輩がおられた。さっそく聞いてみた。「1時間に400字詰めで何枚くらい打てますか」「まあ平均して3枚から4枚だね」「そうですか」。
私は手書きで平均400字詰め1枚10分だ。途中で資料を見たりするから1時間に5枚ぐらいだ。そうなるとワープロの技術を身に付けても、私の場合は短いものは手書きのほうが早い、ということになる。
しかし手の力にも限界があるので、長いものはつらい。そこで“起こし屋”を紹介してもらって頼んでいる。吹き込みにもいろいろ工夫する。
「縦書きです。表紙は右の隅にナニナニ(誌名)と書いた後、2字空けて原稿、4字空けてカッコ16年(洋暦)何月分。メインタイトルはナニナニ、左の端に僕のペンネーム。紙を替えてください。本文です。3行空けます。後で小見出しを入れます。4行目の2字目からお願いします」。これが吹き込みスタートのせりふだ。
そして所々にクスグリを入れる。クスグリというのは、起こし屋さんへのサービスだ。「疲れない? 肩もんであげようか」「一休みしなさいよ。歌ってあげようか。裕ちゃんの“北の旅人”? 中島みゆきさんの“りばいばる”、それとも鶴田浩二さんの“赤と黒のブルース”?」。これは実際に歌う。カラオケの持ち歌だ。しかし全章は歌わない。1番だけだ。ただ石原裕次郎さんの“北の旅人”は最終章の小樽にこの歌のモチーフが凝縮しているので、1番と併せて最終章を歌う。その間起こし屋さんが聞いているのか、確かめたことはない。あるいは「このバカ、超忙しいのにナニヤッテンダヨ!」と、テープレコーダーの回転速度を速めてしまうかもしれない。
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