タクシーに乗ると必ずドライバーの名札を見る。佐藤さんや斉藤さんなら大体は東北が出身地だ。藤がつく姓は藤原氏にかかわりがある、という伝承がある。子孫はそれを誇りにしている。が、この姓は九州にもある。特に大分県には佐藤さんや後藤さんが多い。
歴史のうえで日本的規模で大きな人事異動を行ったのが、源頼朝と豊臣秀吉だ。二人とも地域の名族の根を引っこ抜いて他地域に移した。秀吉はこの異動を“大名の鉢植え”と言っている。大名に対し「おまえたちは鉢に植えられた植物にすぎない」という認識を植え付けた。人事権の所在を示し、大名たちの土着性を否定したのだ。頼朝は東北の有力者を九州に移し、腹心を東北や中国地方に配置した。佐藤さんや後藤さんはこのときの移動者だ。
宮崎県の伊東さんもそのルーツは熱海の先の伊東あたりの豪族だろう。山口の毛利氏(山口の前は広島)も鹿児島の島津氏も、出身は神奈川県だ。頼朝のときに移されている(封地をもらっている)。
タクシードライバーに限らず、初対面の人とはまず相手の出身地を聞くことから始める。これが会話のきっかけだ。嫌がる人はいない。珍しい姓の人は待ってましたとばかりに乗り出してくる。姓が珍しい家は大体地域とかかわりがある。「ああ、地域とのそういうゆかりがあったんですね。でも地域名を姓にしたのは、その地方一番の実力者だったということですよ」と言うと相手は喜ぶ。
タクシードライバーの中には、とてつもない先祖の名族化をする人もいる。名札を見て大体の見当がつくようになっているので、「田舎はどこどこでしょ」と言うと「よくわかりますね」という返事がある。そこでこっちが持っているその地域の歴史の話をする。これもコツがあって、6割から7割は相手も知っている話(つまり常識)、それに3割から4割は相手の知らない話(私の創作もある)をする。
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