正月太りに悔やむ人が知っておきたい脂肪の真実 皮下脂肪がなくなったナタリーに起こった悲劇

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食べ物が手に入らないときでも、体脂肪がエネルギーを供給することで、心臓や脳などの重要な器官が機能し続けられます。つまり脂肪は、生き残るために欠かせないものであり、ある程度の体脂肪がある人だけが、長い飢饉などを生き延びることができたというわけです。

この特徴のおかげで、人類は種として存続できました。そのため、先史時代では脂肪があればあるほど称賛され、場合によっては崇め奉られました。

狩猟採集の時代が終わると、人々は定住し始め、村や町を築くための第1歩を踏み出しました。家畜を飼い、穀物を植え、食料を貯蓄できるようになったため、厳しい飢饉はあまり起こらなくなりましたが、自然災害などのときは別です。穀物が育たなければ太刀打ちできないため、脂肪は人間にとって必要な友達であり続けました。

体脂肪に対する見方は歴史上、ころころ変わってきました。古代エジプトでは、道行く女性たちは整ったスリムな体つきで、古代ギリシャでも人々は痩せて引き締まった体を好んだといいます。ギリシャ人哲学者のソクラテスも、体型維持のために毎朝、飛び跳ねたりしていたそうです。古代スパルタでは、肥満者は町に入ることが許されなかったといいます。

時代と共に変わった体脂肪に対する見方

ところが17世紀になると、ルーベンスが大きなお尻と小さな胸の女性たちの絵を描き、「ルーベンス風」と呼ばれて人気になるなど、変化が見られるようになりました。ルネッサンス後期からぽっちゃり体型を目指す人が増え、19世紀に入ってもふくよかな体型は人気で、富、成功、権力の象徴とされました。

20世紀初頭はどうでしょうか。アメリカ合衆国、バーモントにウェルズ・リバーという小さな町があり、そこでは毎年、ある週末に男たち(大きなお腹を抱えた二重顎の男たち)が酒場に集まり、「ニュー・イングランド太っちょおじさん倶楽部」が開催されていました。

裕福なビジネスマンがコネをつくるためのクラブで、メンバーになるには体重が100kg以上あり、金持ちでなければなりませんでした。19世紀初頭にはアメリカ合衆国やフランスのいたるところで、このような集まりが開かれていました。脂肪の全盛期です。

しかし、それも長くは続きませんでした。

次第に脂肪の評判は落ち、スレンダーな体型が理想とされるようになりました。1920年代には、この流行に乗って利益を上げようとする会社が出現しました。25年にタバコ製造会社の「ラッキー・ストライク」は、「お菓子じゃなくて、ラッキーに手を伸ばせ」をスローガンに、マーケティング・キャンペーンを打ち出しました。

30年代には、ジニトロフェールという薬を使った、とても危険なダイエット法が登場しました。この薬は脂肪の塊を燃やし、大幅に減量できるものの、ガンガン燃やしすぎるために高熱が出るものでした。死者まで出し、38年に禁止されましたが、80年経った今でもインターネット上では違法取引が行われているというから驚きです。

50年代には、オペラ歌手のマリア・カラスが試して減量に成功した「奇跡の薬」が登場しました。その錠剤にはサナダムシの卵が入っており、それを服用して彼女は30kg以上痩せたのです。効果的ですが、あまりに気持ちが悪く、危険な方法です。

60年代には痩せ細るのがはやり、そのトレンドはツイッギーが英国で人気を博したことで加速します。若い女性たちは彼女を目指し、極度に痩せようと努力しました。その後も痩せることへの人々の飽くなき追求は続き、ここ数十年でさまざまなダイエットがはやり、今世紀に入る頃には、減量に取り組む人たちを題材にしたテレビ番組も放映されるようになりました。

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