GIGAスクールは国が全額負担、高校は誰が負担するのか

2021年4月、全国の公立小中学校で1人1台端末と高速大容量通信環境下での新しい学びが始まった。当初の計画を前倒ししての急速な展開は学校現場に少なからぬ混乱をもたらしたが、3月までに納品が完了しなかったのは64自治体等(確定値)と、ほとんどの学校で本格的な活用フェーズに入っている。

だが、1人1台端末と高速大容量通信環境の実現は、単なる通過点にすぎない。多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、個別最適な学びを全国の学校現場で持続的に実現するというGIGAスクール構想の目的を達成するため、すでに次のステップに向けた動きが始まっている。その1つが、義務教育段階のICT環境を途切れさせることなく高校へとつなぐための、高等学校「1人1台端末」の整備だ。

文部科学省は3月、「GIGAスクール構想の最新の状況について」を公表した。その中には1月から2月にかけて実施した「高等学校における学習者用コンピュータの整備について」という調査の結果も記載されている。公立高校でのICT端末の整備状況の21年3月末の見込みについて聞いたこの調査は全国47の全都道府県教育委員会を対象に行われた。

それによると「1人1台端末」の整備を目標にしているのは42自治体で、残りの5自治体は「検討中」としている。整備期間について42自治体の内訳を見ると、20年度中に完了したところは12自治体(秋田県、群馬県、富山県、福井県、岐阜県、和歌山県、山口県、徳島県、愛媛県、佐賀県、長崎県、大分県)にとどまっている。

小中学校の大半がすでに「1人1台」を実現しているのと比べると、公立高校の整備状況はあまり進んでいないのが実情のようだ。21年度中に完了するというのは5自治体、21~23年度が3自治体、22~24年度は13自治体で、9自治体は整備を目標にしてはいるものの、期間については「検討中」と回答している。

では「1人1台」を整備する費用は誰(どこ)が負担するのか。GIGAスクール構想では、小中学校への端末配備の費用を国が全額負担するが、高校への端末配備については、国の負担は部分的な補助となっている。調査によれば整備を目標としている42自治体のうち、16自治体(38.1%)は自治体自身の負担で整備する「設置者負担」としている。

それに対して15自治体(35.7%)は「保護者負担を原則」と回答している。義務教育ではないのだから保護者負担という考え方であろうか。しかしそうなると、保護者が負担に応じなければ「1人1台」の実現が危ぶまれる可能性もあるのではないだろうか。残りの11自治体(26.2%)は「検討中」としている。

※文科省「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)」

高校教員の4人に1人は「賛成しない」という調査結果も

一方、ICT市場調査コンサルティングのMM総研は「高校版GIGAスクール構想における端末配備状況と活用意向」(21年3月末時点)を調査し、4月末にその結果を発表した。47都道府県の教育委員会(回答数40団体)、高校教員、高校生世帯の保護者を対象にしたアンケート調査だ。

ここではまず「保護者が期待する1人1台用端末の種類」を聞いている。それによると保護者の過半数の54%がパソコンと答えている。以下、キーボード付きタブレット(24%)、キーボード無しタブレット(10%)、スマートフォン(5%)の順になっている。

教育委員会に端末の調達方針を聞いた項目では、34団体が「私物スマホの利用については検討してない」と答えているが、6団体は「私物スマホの利用を検討」としている。また、生徒用端末1人1台化についての賛否では、公立高校教員では74%、保護者では82%が「賛成する」と答えている。「賛成しない」と回答したのは保護者では18%だったが、教員では26%だった。高校教員の4人に1人以上が「1人1台」に賛成していないという実情は、懸念すべき要素ではないだろうか。

端末の選定は、教員の83%が「自治体または学校が選定に関与すべき」、保護者の86%が「学校が関与すべき」と回答している。教員からは「端末の選定は学校や自治体に任せてほしい。端末は手段であって目的ではない」(数学教員)、「スマートフォンでは授業は困難」(理科教員)という意見があったという。また、保護者からは「教科書と同じ考え。教材になるので統一したほうがいい」「自分たちではどの端末がいいか判断しかねる」という意見が寄せられたとある。

またこちらの調査でも、教育委員会に1人1台の整備の費用負担について聞いている。それによると「国および自治体の予算で配備・検討中」が21団体と過半数を占めているが、「保護者負担を利用・検討」としたのも19団体で、「国および自治体の予算で配備・検討中」とした団体数と拮抗している。

「保護者負担」とした19団体をさらに詳しく見ると、10団体は「機種指定のない私物端末の持ち込み」を検討しており、3団体は「保護者負担」としつつ「学校指定購入機器の持ち込みを実施もしくは検討」と答えている。機種は自治体・学校で決めるが、負担は保護者というケースもありうるということだ。あとの6団体は「方法を検討中」としている。

費用負担については、教員の53.1%が「政府や自治体の全額負担が望ましい」と回答。一部負担も合わせると、教員の74.1%が政府や自治体に何らかの支出を望むとしている。また保護者は、端末費用が保護者負担の場合、負担できるのは「年間1万円未満」という回答が35.3%と最も多く、「0円」つまり負担できないという保護者が2番目で28.9%を占めた。

高校の1人1台化も、低所得世帯などの生徒が使用する端末については、国が予算をつけることが決まっているが、費用負担については政府や自治体と保護者との間に意識の乖離があるようだ。

高校の場合、義務教育の小中学校と違って普通科、専門学科、総合学科などの多様性がある。小中学校とは異なるそうした多様性に応じた1人1台化への取り組みも必要になるだろう。個人所有の端末を自由に持ち込めるBYOD(Bring Your Own Device)も選択肢の1つなら、学校側が推奨機種を決めるBYAD(Bring Your Assigned Device)も選択肢の1つになるし、その両方を組み合わせるという方法も成り立つ。高校1人1台化へのアプローチ方法には、そうした柔軟性が求められるのではないだろうか。

(写真:iStock)