シリアのクルド人勢力を巡る複雑情勢の行方 トルコが攻撃、アメリカはどちらに付くのか

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トルコ側の言う「テロネットワーク」、中でもYPGは、シリアにおける米国のISIS(自称イスラム国)掃討作戦の主力を担ってきた。米軍率いる有志連合軍がISISへの空爆を開始して1年後、そしてロシアがシリアのバシャル・アサド大統領を支援するために内戦への軍事介入を始めた1カ月後の2015年10月、アメリカの支援でSDFは創設された。反政府勢力の度重なる敗北やイスラム過激派の影響力拡大を受け、アメリカの支援の重心はクルド人勢力へと移っていく。

米主導のISIS掃討作戦はシリア北部で大きな成果を上げ、昨年10月にはISISの事実上の「首都」だったラッカを奪還。トルコはシリア反政府勢力を支援する立場を維持する一方で、自国との国境近くでクルド人民兵の活動が活発化することに神経を尖らせていた。トルコ国内で数十年にわたって分離独立のための武装闘争を続けているクルド労働者党(PKK)との関係を疑ったためだ。トルコは国内でのPKKの活動を禁止している。

ISIS掃討作戦が終わりに近づく今も、アメリカはクルド人勢力への支援に力を入れ続けている。シリア政府軍が各地の戦闘で勝利を収める中、アサド政権を支援するイランの影響力が強まっており、その防波堤にしたい考えなのだ。もっとも専門家は、もしアメリカがNATO加盟国でもあるトルコとの協力関係の維持を望むなら、現在の戦略を見直す必要があるかも知れないと指摘する。

アメリカはこの対立の深刻さを過小評価している

「アメリカとトルコの政策はゼロサムゲームになっている。トルコはシリアにおけるアメリカのパートナーと戦争状態にあり、その結果、間接的にだがアメリカと戦争状態にある。シリアのクルド人組織であるYPGを巡る対立は、アサド退陣といった共通の目標に向けて両国が同一歩調を取る大きな妨げになっている。アメリカはこの対立の深刻さを過小評価している」と、米軍事研究所のトルコ人アナリスト、エリザベス・テオマンは言う。

「アメリカが政策の基礎を置いているのは、YPGとPKKの間に関係はない、つまりトルコ国内で続いている武力闘争とシリアのクルド人勢力とは無関係だという『神話』だ。アメリカが政策を現実に合わせるまで、トルコの反発はエスカレートするだろう」とテオマンは言う。

トルコはこれまで繰り返し、アサド大統領を非難し、その退陣を求めてきた。だが政府軍の勝利、特に16年12月のアレッポ奪還により、ロシアやイランとともに内戦解決の道を探ることを余儀なくされた。その過程でトルコがロシアの先進的なミサイル防衛システムの調達を決めたことなどにより、シリアをめぐるトルコとアメリカの関係はますます悪化した。

先週、トルコ政府は反政府勢力が支配する唯一の県であるイドリブ県へのシリア政府軍の侵攻をめぐってイランとロシアの駐トルコ大使を呼び出した。さらに米軍がクルド人武装勢力を支援していることでアメリカの代理大使を召喚した。トルコ政府はそれぞれに抗議の意を伝える一方で、アメリカが支援するクルド人勢力に対してのみ軍事行動を起こした。トルコの作戦の背後にはロシアやイランとの協調があったとも伝えられる。

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