「美坊主」に頼らざるをえない寺業界の苦悩 自分の葬式に来てほしい僧侶はいますか?

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在家から仏門に入り、この業界で理不尽に思うことも山ほどあるという松本さん。しかし、よいことも、そうでないこともあるのが当たり前。すべてを受け入れると不安や迷いは解消でき、必ず人間の成長があるという。

「迷いや苦しみは自分に与えられた修行だと思えばいい。いいことばかりは続かないし、悪いことばかりも続きません。辛抱ではなく、受け入れる。それは“糧”なのです」(松本さん)

このコンテスト、いったいどのような目的で開催しているのだろうか。主催者である、株式会社おくりびとアカデミーCEOの木村光希さん(彼もイケメン)に話を聞いた。ちなみに、おくりびとアカデミーは納棺士を育成する学校を運営しており、木村さん自身も納棺士。木村さんの父は、映画『おくりびと』で技術指導を行った納棺士の第一人者、木村眞士氏である。

美坊主コンは、寺離れ時代の起爆剤

木村さんは、「多くのお寺の課題は、地域の人々とのご縁をつなぐことですが、寺離れが加速している現代社会において、このような花火を打ち上げることは、お寺に目を向けていただくことのひとつの方法です」と開催の目的を語る。

コンテスト主催者CEOの木村光希さん。当初は、美坊主=イケメンと誤解されて、批判も多かったという(撮影:梅谷秀司)

「エンディング産業展の来場者の多くは終活業界の関係者です。しかし、せっかくこのような大きな展示会を開くわけですから、一般の方々に、展示会もお寺にも注目していただきたい。そう思って美坊主コンテストを始めたのです。実際、『美坊主』という言葉で女性のお客様にも多数来場いただき、立ち見が出るほど大盛況になりました」(木村さん)

ただ、「美坊主」という言葉に誤解も多く、2015年の初回開催時には「お坊さんを見た目で評価するのか」という批判が殺到したという。

だが、このコンテストは決して見た目のみを問うものではない。「立ち居振る舞いや、僧侶としての姿勢、人間性、心の美しさなどを、総合的に審査するものです。とはいえ、やはりキャッチーなコピーをつけたほうが、注目されるのも事実。だから、美坊主=イケメンと解釈されるのは仕方がないのかもしれません」(木村さん)

そして、さらに聞いていくと、お寺業界が抱える深刻な悩みが浮かび上がってきた。「寺離れの理由のひとつに、お坊さんへの不信感というものもあると思います。私も納棺士の仕事を通し、多くのお坊さんにお会いする機会がありますが、人間的にすばらしいお坊さんもいれば、正直、そうでない方もいらっしゃいます。

『自分の葬儀を行うときに、このお坊さんにぜひともお経をあげてほしい!』と思えるお坊さんに会ったことがありますか? 中には、心が震えるような法話をしてくださるお坊さんもたくさんいらっしゃいます。そのような立派な僧侶の方々に、もっと世に出てほしい。それもこのコンテストを行う理由のひとつです」(木村さん)

確かに、僧侶のセクハラや暴力事件などのニュースは度々耳にする。法要で高額なお布施を要求された、という話も聞く。

今、「生臭坊主になど、葬式は頼まない」「坊さんの話なんて興味がない」と思っている人が多いのは、すばらしいお坊さんに出会う機会がないからともいえる。僧侶として尊敬できる “美坊主”に出会うのは、確かに至難の業だ。そうしたお坊さんを発掘し、世の中に紹介するのが美坊主コンテストの一つの大きな使命なのである。

お寺や(心ある)お坊さんたちは、われわれの苦しみに寄り添える方法を、手を替え品を替え、日々考えてくれている。一般人がお寺に注目するきっかけになるなら、たとえそれが前代未聞な手法でも温かく見守ってほしい、というのが筆者の思いである。人間的にすばらしい僧侶としての美坊主でもいいし、さらにイケメン僧侶のランウェイでも悪くはないと思う。

ちなみに、2017年の美坊主グランプリ、松本勇真さんは、東京・巣鴨にある龍源山功徳院でお勤めをしている。出張や法要がないかぎりは、実際にお会いしてお話を聞くことができるはずだ。美坊主に会いに行ってみてはどうだろうか。

島田 ゆかり ライター

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しまだゆかり / yukari shimada

月刊誌・企業広報誌などの編集を経て、フリーランスのライターに。寺社好きが高じ、お寺業界の様々なトレンド、裏事情などを取材、発信。ほか、女性のライフスタイルなどの企画・編集・執筆も手がける。

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