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木村屋×NEC「100年企業タッグ」で商品開発に挑戦 若者の恋ゴコロに火を灯すAIと職人技の融合

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恋AIパン
甘いのか、酸っぱいのか。あるいは苦いのか──。酒種あんぱんやむしケーキなどで知られる木村屋總本店から「恋がしたくなる味。」をうたった「恋AIパン(れんあいぱん)」が発売された。名前からもわかるとおりAI(人工知能)が深く関わっており、NECと共に開発を行ったという。予測や画像解析をはじめ、ビジネスや社会のさまざまな分野で活用が始まりつつあるAIだが、食品への活用は珍しい。経緯やパンに込めた思いについて木村屋總本店 代表取締役社長 木村 光伯氏、NEC CDO 吉崎 敏文氏に話を聞いた。

社会課題解決に向けて挑戦。異色に見えるタッグの背景は

──「恋がしたくなる味。」とても心をくすぐるネーミングですね。「恋AIパン」とは、どんなパンでしょうか。

木村屋・木村氏
木村屋總本店
代表取締役社長
木村 光伯(みつのり)

木村パンを食べた人に恋を追体験してもらいたい。そう考えて「恋」を「味」として再現したパンです。「運命の出会い味」「初めてのデート味」「やきもち味」「涙の失恋味」「結ばれる両想い味」の5種類があり、例えば、初めてのデート味は、ライムの生地に柿を合わせ、上からオレンジピールをトッピングしています。どんな味に仕上がっているのか。はたして、初めてのデートのことを想像したり、思い出したりするのかどうか。ぜひ食べて確かめてみてください。

──AIをどのように活用しているのでしょうか。

吉崎 例えば、一口に「出会い」と言っても、喜び、緊張、不安など、そこにはさまざまな感情が含まれています。NECは、音声認識、データ意味理解技術などのAIを活用し、若い人たちに人気の恋愛番組の会話と約100万曲の日本語の歌詞を分析。恋愛の象徴的なシーンを構成する複雑な感情と、その感情を味として表現するのに適した食材をリスト化しました。木村屋總本店(以下、木村屋)さんがそのリストを基にパンのレシピを開発し、5種類の味の恋AIパンが誕生しました。

──木村屋とAI。NECとパン。異色の組み合わせですね。

木村創業155周年を迎えた木村屋ですが、創業者の木村 安兵衛が日本で初めて酒種あんぱんを作った(同社調べ)ように、その歩みは挑戦の歴史でもあります。海外から輸入したパンという食文化を日本の食文化や私たちのノウハウと融合させて独自商品を開発し、お客様に提案し続けてきました。ですから、AIという先端技術を使ってパンのレシピを開発するという挑戦は、実はとても“木村屋らしい”取り組みなのです。

NEC・吉崎氏
NEC
CDO(Chief Digital Officer)
Corporate Senior EVP ※2024年4月1日就任
デジタルプラットフォームビジネスユニット長
吉崎 敏文

吉崎 あんぱんは当時の挑戦の結晶だったのですね。NECも120年を超える歴史を持つ企業です。同じ100年企業の木村屋さんから、若年層の恋愛離れに対してパンとデジタル技術で何かできないかと声をかけられたのが、恋AIパンプロジェクトのきっかけです。

実はNECと食品の組み合わせは初めてではありません。NECは「AI Analytics for Good」というスローガンを掲げ、AIを一人ひとりの幸せのために役立てたいと考えており、食を通じた課題解決にも取り組んでいます。2022年には、カゴメ様とコラボして子どもの野菜嫌いを克服する「AI(愛)のプリン」を開発しました。

木村開発に当たって、プリンだけでなくクラフトビールやチョコレート、コーヒーなど、NECさんが食品開発の実績を持っていることは、非常に心強く感じました。

成長を期待し、若い人材にリーダーを任せる

──プロジェクトでは、若い人材が活躍したと聞きました。

吉崎 恋愛を味に落とし込むにはどんなデータが必要か。挑戦はデータの選択や分析方法の設計からスタートしました。恋愛の各シーンを構成する感情を番組データから抽出し、一方で感情を表現する食材を歌詞データから抽出し、それらを結合させて感情を表現する食材を選び出す、という工夫をしました。このプロジェクトをリードしたのは、入社4年目のデータサイエンティストです。

多くのデータを処理する手間や難易度が高い分析ではありましたが、先輩らと熱心に議論を交わしながら、この難しいプロジェクトを見事にリードしてくれました。その結果が、召し上がっていただく消費者の感情に訴えかける、新たな味覚体験につながったと思います。

NECはCDO直属で「NEC Generative AI Hub」という生成AI専門のチームを組織しています。若手データサイエンティストの育成は重要かつ切実なテーマ。今回の成功体験はNECにとっても大きな財産です。

木村当社でNECさんから渡された食材リストをレシピに仕上げたのも、若手の担当者です。おいしいだけでは駄目。その味で恋を再現しなければならない。リストとして渡された食材には、これまで扱ったこともない食材が含まれていました。しかも、普段の商品開発とは違い、社外のNECさんともやり取りしながら、限られた期間で商品仕様をフィックスしなければならない。ハードルの高いミッションでしたが、持ち前のバイタリティーでクリア。見ていてとても頼もしく感じました。

本人曰く、最も苦労したのは「やきもち味」。虚無感、ネガティブな恋愛の気持ちが伝わるように暗い色合い、少し重い食感となるよう、味だけでなく、色合いや食感も調整したそうです。

恋AIパンを通じた体験が意識変容を促す

──恋AIパンへの反響はいかがですか。

木村多くの方面から反響をいただいていますが、思いもよらなかった反響もあります。その1つが婚活イベントを企画する会社からの問い合わせです。5つの味をセットで購入し、参加者同士の会話を盛り上げるアイテムとして、イベントで利用したいと言うのです。確かに恋AIパンをきっかけに「恋バナ」が盛り上がれば、自然に参加者の恋愛観や人となりを知ることができそうです。とてもうれしく思いました。

吉崎 純粋にパンとして味わったり、自身の恋愛体験を思い返してみたり、あるいはAIや恋愛ソングについて想像するなど、恋AIパンにはさまざまな楽しみ方があると思いますが、コミュニケーションの機会を提供することも恋AIパンの価値の1つですね。

先日、高校生を招いて試食会を開いたのですが、そこでも恋AIパンを食べながら文字どおり恋バナに花が咲いていました。試食後のアンケートにも「恋AIパンの甘い味で恋がしたくなりました」といった声が見られたのですが、味だけでなく同世代の人たちとの会話が、その意識変容を促したのではないでしょうか。

木村そういえば、もう1つ紹介したい反響がありました。今朝、妻から「次は『妻への謝罪』を味にしたパンを開発してほしい」と言われました(笑)。

吉崎 なるほど(笑)。なかなか難しい分析テーマになりそうです。

──今回の経験は両社のビジネスにどう生かせそうですか。

木村木村屋は以前、COEDOビールで知られるコエドブルワリー様とのコラボレーションも経験しましたが、今回もNECさんとの業種の枠を超えたコラボレーションを通じて、さまざまな刺激を受けました。今後も木村屋らしい挑戦を通じてお客様がわくわくするような魅力ある商品をお届けしたいと考えています。

Cotomi・ロゴ

吉崎 今回、NECは先ほど紹介した食材リストの作成以外にも、もう1つAIに関する挑戦を行いました。昨年から話題の生成AIの実用化です。NEC開発のLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)「cotomi」を利用して、恋AIパンの商品パッケージやWebサイトなどで使用している商品解説文を生成しました。自社の技術ではありますが、AIが生成したフレーズを見て私はとても感動しました。

すでに食品業や小売業などのお客様からもAIによる商品開発に一緒に取り組んでほしいといったご要望を数多くいただいています。そのような期待を寄せられることは非常に光栄であると同時に大きなチャンス。生成AIの登場によってAI活用の可能性はさらに広がっています。NECはAIの社会実装をリードし、社会課題の解決に貢献していきます。

2人の写真

恋がしたくなる味。恋AIパン

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