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DXは「止まらない社会インフラ」をどう変えたか 「ゼロベースの業務変革」決断に至った理由とは

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暮らしを支え、経済活動を活性化させる社会インフラ。とりわけ電気を供給する配電設備は、現代社会になくてはならないものだ。他方で、加速度的に進む人口減少により、配電設備の工事やメンテナンス業務も深刻な人手不足に見舞われるおそれがある。「止まらない電気」の持続可能性を高めるため、業務変革を進める東京電力パワーグリッドと、コンサルティングとして伴走するNECの取り組みを追った。

安定した電力供給を支える年間200万件の工事

東京電力パワーグリッドは、首都圏エリアに電気を供給する送配電事業会社だ。その電力供給量は、日本全体の約3分の1にも達する。にもかかわらず、年間の停電回数0.1回、停電時間は年に6分間(いずれも2021年度)と安定性は非常に高い。

この「止まらない電気」を支えているのが、電柱や電線、オフィスや住宅までの引き込み線といった配電設備だ。管内の電柱は約590万本、電線の長さは約36万キロメートルと地球9周分にも相当する。とりわけ都市部の住宅密集地において、電線や引き込み線を適切に配置するのは容易ではない。東京電力パワーグリッド 技術・業務革新推進室の宮本英明氏は、次のように説明する。

東電パワーグリッド宮本氏
東京電力パワーグリッド
技術・業務革新推進室
次世代販工開発グループマネージャー
宮本 英明
※肩書は2023年9月時点

「新たな住宅や建物ができるときは、既設の電線や引き込み線との兼ね合いも考える必要があります。加えて配電設備は、1980年代に工事されたものが多くを占めているため、老朽化が進んでいます。メンテナンスと設備の更新をうまく組み合わせながら、適切な工事計画を立てなくてはなりません」

年間200万件にも上る工事件数。その大半で設計図を作成し、必要な材料を調達して工事班を手配しなくてはならない。計画的に進められるならばまだしも、台風や水害、地震などの自然災害で不具合が起こればその対応を優先する必要がある。「調整の嵐」と宮本氏が表現する状態が日常化しており、経験やノウハウがなければ回らない。

「今は設備の状態を含めた土地勘を持ち、人手の状況まで把握している優秀なベテランがいるため何とかなっています。しかし人口減少に伴い、今後担い手が減っていきますので、業務が属人化している現状に対する危機感は強く持っています」(宮本氏)

東電パワーグリッド江野氏
東京電力パワーグリッド
調達室
配電・通信設備第一調達グループ
副主任
江野 朋尚
※肩書は2023年9月時点

業務フローが時代に追いついていないのも大きな課題だと付け加えるのは、東京電力パワーグリッド 調達室の江野朋尚氏だ。

「工事計画を立て、設計図を作って工事関係者に連絡するのが一連の流れです。今までは1日かけて計画立案、関係各所との調整対応を進めるなど、各工程で時間がかかっていました。また、重要な設計図についても、工事やメンテナンスに必要な膨大な情報を紙1枚にすべて詰め込み、それをバケツリレーのように渡すという非効率なフローも大きな課題でした」(江野氏)

「テクノロジー×コンサルティング」を高次元で融合するNEC

こうした人に依存する柔軟性の低い業務フローをいかに変えるか。宮本氏・江野氏を中心とした業務革新プロジェクトのメンバーは、ゼロベースの業務変革が必要だと判断する。

「現在の業務システムは約30年前に導入したものです。手作業をシステム化したわけですが、紙で情報伝達をする文化はそのまま引き継がれています。そこをベースとして業務設計を行うわけですから、抜本的に見直さなければ真の業務変革はできないと考えました」(宮本氏)

だからこそ、システムの改修やリプレースではなく、上流の段階から社外に知見を求めた。「われわれが気づくことのできなかった視点を得たい」(宮本氏)との思いから、あえて要件を絞らず業務変革の提案を複数社から募ったのだ。その中で1社だけ異なるアプローチを示したのがNECだった。

「現状を見て課題を抽出し、対応策を示すのが一般的な考え方だと思います。実際、他社からはそうした提案をいただきましたが、NECさんだけは違いました。まず『ありたい姿』を描き、その実現に向けてどうするかという発想だったのです。われわれは『そもそもこの業務は必要なのか』といったところから見直しを始めたいと考えていましたので、『ありたい姿』をゼロからつくるという考え方はマッチすると思いました」(宮本氏)

「とにかく速い」対応で戦略・構想策定を支援

業務変革を実現するには、組織内の目線を合わせていくことが欠かせない。業務の「ありたい姿」を描こうという上流工程から取り組む東京電力パワーグリッドの場合はなおさらだ。NECは、まずワークショップ形式で組織内の議論を促していった。NEC デジタルプラットフォームビジネスユニットの武田一也氏は次のように説明する。

NEC武田氏
NEC
デジタルプラットフォームビジネスユニット
コンサルティングサービス事業部門
ディレクター
武田 一也

「まずは先端テクノロジーを知っていただくことから始めました。AIや量子コンピュータ、生体認証、5Gとよりさらに高度化して持続可能性が高まるBeyond 5Gなどをご紹介しながら、『このテクノロジーを使うと業務がどう変わりますか』という問いを投げかけていきました」

設計業務と聞けば、AIやVRを活用して効率化しようと考えがちだ。しかし、「今の業務を置き換えるだけになってしまう」(宮本氏)ため、業務の必要性をまずは検討し、それから使えるテクノロジーは何かを起点として議論を展開。1カ月間で5回のワークショップを行い、「ありたい姿」を共に描き出していった。

「最も重視したのは、本当に人がやらなければならない業務と、業務自体の必要性を見極めるということです。ワークショップを積み重ねていく中で、人と紙を介さずとも工事班の空き状況やスキルが可視化され、必要な材料の調達も含めて自動的にスケジュール案を策定し、各担当者が迅速に意思決定できる業務フローを構築したいと考えられるようになりました」(宮本氏)

先端テクノロジーの活用で、従来では実現が難しかった自社業務における適切な組み合わせを導き出す。それは、自分たちの「ありたい姿」を明確に描き出すことにつながった。

NEC田中氏
NEC
デジタルプラットフォームビジネスユニット
コンサルティングサービス事業部門
プロフェッショナル
田中 大助

「とにかくNECさんの対応スピードは速かったです。『ありたい姿』を固めた後は各所の現場に直接出向き、担当者へ詳細なヒアリングを実施しながらギャップをどう埋めるかといった方向性を整理していきました。われわれが『こうじゃない』と申し上げた内容に対する別案を的確に提示いただくなど、スムーズに戦略・構想策定を進めることができました」(江野氏)

この反応について、NEC コンサルティングサービス事業部門の田中大助氏は、「たとえ生煮えの状態でも素早く方向性を提示し、議論ができる状況をつくり出すように進めてきました」と話す。大手コンサルティングファーム出身者とNECのプロパー社員をバランスよく配置し、先端テクノロジーとコンサルティングの知見を高次元で融合させているのも強みだろう。

業務変革という題目を掲げながら、実際は細部の効率化にとどまるなど、ドラスティックな取り組みにつながらないケースは多い。その点「ありたい理想像」を明確に描いてそこから逆算しながら取り組みを進めるNECの手法は、効率的かつ成功の確率が高いものだ。先端テクノロジーの活用を組み込んだ戦略・構想の策定は、時代の変化にも柔軟に対応できる有効な手段となるだろう。大規模かつ業務フローが固まっていて変革の道筋が見通しにくい場合こそ、参考にすべきではないか。

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