オカルトについてもまじめに研究されている--『脳には妙なクセがある』を書いた池谷裕二氏(脳研究者、東京大学大学院薬学系研究科准教授)に聞く

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──結果を見て、科学者として方向性は変わりましたか。

自分は失敗にめげないタイプだが、失敗から学習しない遺伝子を持っていることもわかった。確かに、貝のカキを食べてあたっても、何度でも好きで食べてしまう。研究者としてもほとんど失敗ばかりだが、決してめげることはない。これが研究者としてはいいのかもしれない。

──最近も、米国の学術誌に研究成果を発表しています。

この7月にも「側頭葉てんかん」について発表している。子ども時代に熱性けいれんを起こすと、将来てんかん疾患になってしまうことがわかった。人では実験できないので、マウスを使った。ドライヤーで温めて熱性けいれんを起こさせると、ほぼ半分のマウスが大人になっててんかんを発症する。熱性けいれんで発達中の海馬がおかしくなり、その障害が残ってしまうからだ。

──目下の研究テーマは「脳の可塑性の探求」とあります。

脳は絶えず変化している。覚えるという行為そのものが、「知らない状態」から「知っている状態」への脳の変化。つまり、すべてが変化という視点からとらえることができる。

──変化前の脳の記憶を保存することはできますか。

外の記憶媒体に置いておくことは考えられる。そうすると、認知症になっても、それを取り出して戻せばいい。ただ、若い頃の記憶を取っておいて、70歳になって戻しても、もはや体は70歳。体とともに心があるとしたら、記憶だけ戻してもどうか。

──心は体とともにある?

脳だけを取り出してもそこに心はない。アニメの設定には、精神だけをコピーしてダイブするというのがあるが、それは無理。体なしでは心は消える。心は体や周りの環境によって形成される。心は体に散在しているといってもいい。

いけがや・ゆうじ
1970年静岡県生まれ。東大薬卒。海馬の研究により薬学博士号取得。2002~05年米コロンビア大学客員研究員。専門は神経薬理学など。現在「脳の可塑性の探求」が研究テーマ。12年脳内シナプス形成の仕組みを米科学誌『サイエンス』に、てんかんの原因究明を米科学誌『ネイチャーメディシン』に発表。

(聞き手:塚田紀史 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2012年9月8日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

『脳には妙なクセがある』 扶桑社 1680円 349ページ


  
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