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「台湾有事」ばかり見る日本人が知らない台北市長選のリアル…「洋流」ムーブメントが映し出す「理想」と都市の未来

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国民党が強い台北で旋風を巻き起こした民進党の沈伯洋候補(写真:Getty Images)
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しかし、沈氏は若い頃から非行少年の支援に携わるなかで、本人に能力があっても、生まれ育った家庭によって進学や就職の選択肢が狭められる現実を見てきたという。親の経済力や社会的地位が子どもに引き継がれ、格差が世代を超えて続いていくことを「階級の再生産」というが、この問題を沈氏は意識してきたのだ。

そこで沈氏は結婚前から養子縁組を考えていたという。22年末に女の子を養子として迎え、妻が「血のつながらない子どもを本当に愛せるだろうか」と迷ったときには、「僕と君だって血はつながっていないけれど、愛し合っているでしょう」と話したとインタビューで語っている。

台湾では伝統的に、家族の「血統」や子孫を残すことが特に重んじられてきた。そうした価値観が今も根強い社会で、血縁だけが家族をつくるのではないと考える政治家が現れたことは、1つの時代の変化を感じさせる。

では、こうした価値観や考え方を、実際の政治にどう生かしていくのか。25年に起きた国民党・立法委員に対する大規模なリコール運動は、すべて不成立に終わり、この運動を支援した民進党が事実上敗北した。これは相手への批判や政治的な対立を強めるだけでは、幅広い市民の共感を得ることが難しい実例といえる。沈氏もこの運動をリードした1人であった。今回、沈陣営がユーモアと前向きなメッセージを大切にし、市民とともに政策を考える姿勢を打ち出している背景には、こうした経験からの学びもあるのだろう。

選挙カーの現在地までわかる、市民参加の仕組み

今回の「洋流」で面白いのは、街頭での選挙活動とデジタル技術をうまく組み合わせていることだ。

沈伯洋陣営の公式LINEに登録すると「船員証」が発行される。沈氏が船長、支持者は「洋流」という船の乗組員というわけだ。LINEの「洋流レーダー」では選挙カー「洋流号」の現在地や巡回予定を確認でき、都合のよい場所で迎えることができる。コロナ禍に台湾で広く利用されたLINEの防疫情報サービス「疾管家」を思い出させる仕組みだ。

候補者が車から手を振りながら街を回った後には、公園や廟などで市政について語り合う公開トークを開催している。参加者はQRコードから「ボトルメール」機能を使って意見を送り、会場のスクリーンに映し出すこともできる。候補者が一方的に訴えるだけでなく、市民との双方向のやり取りを選挙運動に取り入れているのだ。

9月に始まった「市長、ちゃんと聞いてよ!」も、市民参加の試みの一つだ。日常の困りごとや市政への意見をオンラインで募り、10月下旬までに7万件以上の声が集まった。ゴミ箱が少ない、ネズミが多い、街路樹が次々と切られて不安、交通渋滞がひどい、古い住宅の安全性が心配……。そんな身近な問題をもとに、10月24日に開催されたのが「市政デバッグソン」である。

「デバッグ」とは、コンピュータープログラムの不具合を見つけて修正すること。これに技術者らが集まって課題解決に取り組む「ハッカソン」を組み合わせた企画だ。参加したエンジニアやデザイナーたちは、樹木の管理やゴミ箱の位置、老朽住宅の情報などを市民が確認できるウェブサイトやアプリの試作品を制作した。市民の不満を単に聞くだけでなく、具体的な解決策へとつなげようとする試みである。

「政策島」が見せる、台北の未来

そして10月22日、沈陣営が公開したのが「HEART(ハート)政策島」である。

沈候補の陣営がリリースした「HERAT政策島」の画面(画像:筆者撮影)

14分野、94項目の公約を六角形の島に整理し、人気ゲーム『あつまれ どうぶつの森』のように、島を歩き回りながら政策を知ることができるオンラインの仕組みだ。建物をクリックすると政策の説明が現れ、関連する政策へも移動できる。公約をただ並べるのではなく、それぞれがどうつながっているのかを「見える化」した。

「あつまれ、どうぶつの森」のような雰囲気が特徴だ(画像:筆者撮影)

その土台となるのが政策体系「HEART」である。市民が心地よく過ごせる空間(Habitat、ハビタット)を取り戻し、誰もが挑戦できる機会(Empower、エンパワー)を広げる。困ったときには寄り添い(Accompany、アカンパニー)、災害や危機から立ち直れる都市(Resilience、レジリエンス)をつくり、日々の暮らしにゆとりある時間(Time、タイム)を取り戻す。そんな5つの目標の頭文字を取って名付けられた「HEART」は、住宅、交通、福祉、教育、環境といった行政分野を縦割りで考えるのではなく、市民が台北で一日をどう過ごすのか、という視点から組み立て直そうとする。

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