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「台湾有事」ばかり見る日本人が知らない台北市長選のリアル…「洋流」ムーブメントが映し出す「理想」と都市の未来

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国民党が強い台北で旋風を巻き起こした民進党の沈伯洋候補(写真:Getty Images)
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最近、台北市内のあちこちで樹木が伐採されたり、大きく剪定されたりする光景が見られ、市民の間に不安が広がっていた。9月には、本来移植する予定だった木を業者が伐採し、市政府が管理上の不備を認める事態も起きた。さらに樹木保護団体が、衛星画像の分析から台北の樹冠面積が減少していると指摘。これに対し市政府は、新たに多くの樹木を植えていると説明し、10月には伐採や剪定の理由を市民が確認できる「小樹保衛站」というウェブサイトを公開した。

台湾では、老木を守る運動が地域の歴史や文化の保存運動と結びついてきた歴史がある。90年代には老木の調査や保護活動が広がり、台北でも青田街などで古い建築と緑が一体となった歴史的景観の価値が見直された。台北市民にとって一本の木は、単なる道路の付属物ではなく、統治者が移り変わるなかで土地の暮らしや記憶を伝えてきた存在なのだ。

制度の公平性や実現力で現職に疑問集まる

10月8日に蒋万安が発表した台北・松山空港の移転構想も、議論を呼んだ。空港と周辺を含む約300ヘクタールを、AI産業や住宅、公園などを備えた複合地区に転用するという大規模な計画だ。しかし、松山空港は離島交通や医療搬送、軍事上の役割も担っており、移転には中央政府との調整が欠かせない。選挙が近づく中での唐突な発表に、与野党双方から計画の具体性を問う声が上がった。

また、蒋市政が重点政策として進めてきた「受動喫煙ゼロ都市」構想にも課題がある。市内に指定喫煙所や負圧式喫煙室を増設したものの、喫煙者と非喫煙者の動線が十分に分けられず、市政府の庁舎内ですら受動喫煙の苦情が出ているという。いずれも政策の方向性そのものが悪いわけではないが、構想を市民の日常に役立つ仕組みとして実現することの難しさが浮かび上がる。

こうした政策の実効性に加えて、市民が行政を見るうえで影響が大きいのが、制度の公平性である。とりわけ学歴競争の激しい台湾では、教育機会の公平な配分に対する関心が高い。そのことを改めて考えさせたのが、蒋市長の子どもの教育をめぐる一連の議論だった。

蒋万安氏の長男が通っている国立台湾師範大学附属中学・高校は、人気ロックバンド「五月天(メイデイ)」のメンバーたちの母校であり、青春映画の名作『藍色夏恋』の舞台としても知られる名門校だ。台湾は学歴競争が激しく、人気校への入学を目指して学区内に住宅を購入し、家族の戸籍を移す家庭もある。

その長男が中学部に入学した際、戸籍や学区の条件を満たしていたのかという疑問が持ち上がった。また、長男がボーイスカウト活動で市長賞を受賞し、市教育局のアメリカ交換留学プログラムにも選ばれたことから、制度の公平性を疑問視する声が上がった。

ここで興味深いのは、名門の家系や華々しい学歴という、これまで蒋氏の人物像を特徴づけてきた「特別さ」が、今回は逆に、市民の不公平感を呼び起こす要因にもなったことだ。行政側は蒋市長の子どもの入学・表彰・留学のいずれも規則に従った対応だったと説明したが、それが市民に十分伝わり、納得を得られたとは言い難い。

「階級の再生産」を考える沈伯洋という人物

では、挑戦者の沈伯洋氏とは、どのような人物なのだろうか。

沈氏は認知戦やフェイクニュースなど中国による台湾への影響力工作の問題を研究し、民間防衛を学ぶ「黒熊学院」を立ち上げたことで知られる。中国政府から制裁対象にも指定され、「対中強硬派」という印象が強かった。

しかし、選挙戦では和やかに有権者と話を交わし、弁舌爽やかで、明快かつユーモアのある説明をする姿が市民の間で話題となっている。市場や夜市では食べ物を勧められ、店主たちと気さくに交流し、人気を高めている。

沈氏について、筆者が特に興味深く感じたのは「階級」、つまり家庭の経済力や親の学歴などによって生まれる社会的な格差に対する考え方だ。沈氏自身は裕福な家庭に育ち、建国高校から台湾大学、アメリカの大学院へと進み、大学教員になった絵に描いたようなエリートである。

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