バネッサは、スペインでソーシャルワーカーとして働く。夫のブルーノは、デザイン会社を経営するグラフィックデザイナーで、写真家でもある。ふたりは8歳の娘を連れて、15日間、日本を旅した。アジアを訪れるのは、初めてだった。
東京に5日間、北陸に10日間。日本人の友人を訪ね、地方の町にも足を運びながら、「日本人の普通の暮らし」に触れることが旅の目的だった。
スペイン在住の筆者のまわりでも、ここ数年、日本旅行から戻ってきたという人に出会う機会が急に増えた。感想は、「日本食が最高」「街全体が清潔」といった定番のものが多い。
しかし、この家族が繰り返し驚いたのはもっと些細な、日本人が気にもしないものだった。
もちろん、改札ひとつで日本社会が説明できるわけではない。とはいえ、似たような「秩序」は、街の至るところに潜んでいた。
「静かすぎる」日本の街
「日本の静けさにも驚いたよね」とブルーノはいう。
「羽田空港に着いた瞬間から、そうでした。バスにぎっしり人が乗っているのに、あまりにも静かで驚きました」
ブルーノは15日間、旅の記録を日記につけていた。5日目の日記には、冗談を交えながらこんな一節を残している。
<ここでの体験は信じられない。車は静かに走り、衝突もない。通行人は話し声がほとんど聞こえず、口の動きに気がつかなければ、無言で歩いているように見える。横断歩道で立ち止まると、鳥のさえずりと、青信号を知らせる電子音を混同してしまう>
さらに10日目には、こう書いている。
<滞在中、救急車のサイレンを聞いたのは3回ほど。あれだけ車が走っているのに、クラクションは一度も聞かなかった。誰も声を荒らげず、子どもが叫んだり泣いたりする姿も見かけなかった>


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