ここには、日本特有の文化的背景があるといわれる。欧米のポップカルチャーでは、高度なAIやロボットはしばしば人間に反旗を翻す脅威として描かれてきた。一方、日本では『鉄腕アトム』や『ドラえもん』のように、ロボットは長い間「人を助ける存在」として描かれてきた。もっとも、これは複数ありうる仮説の一つにすぎない。
いずれにせよ、日本人はAIを本能的に怖がっているから使わないのではない。にもかかわらず、ビジネスへの実装は遅れ、職場利用も進まない。このねじれこそが、日本社会が抱える最大のパラドックスである。
「解雇されない安心感」が業務の再定義を止める
日本人がAIを脅威と感じずにいられる理由は、文化だけではない。もう一つ大きいのが、雇用をめぐる安心感である。欧米のジョブ型雇用では、「この仕事はAIで代替できる」と判断された瞬間、働き手は職を失うかもしれない。一方、解雇規制が強い日本の正規雇用では、「AIが入ったからといって、明日すぐに職を失うわけではないだろう」という安心感が広く共有されている。
だが、ここに皮肉がある。この「解雇されない安心感」こそが、企業の実装を止める大きな要因にもなっているのだ。ジョブ型雇用では業務の定義が比較的明確なため、「この仕事は人がやるべきか、AIに置き換えるべきか」という議論が直接的に起こる。ところがメンバーシップ型雇用では、まず人が会社という共同体に所属し、その後に仕事が割り当てられる。職務の境界線が曖昧なため、AIをどこに差し込み、誰の役割をどう変えればよいのかが見えにくい。
しかも現場の従業員にしてみれば、AIで仕事を早く終わらせても、評価や報酬に直結するわけではない。むしろ「空いた時間があるなら別の仕事もできるよね」と新たな雑務を上乗せされるのではないかという警戒感が生まれる。こうして組織全体が、「AIに合わせて業務を再定義する」という最も重要な仕事から逃げてしまうのである。


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