具体的な値を尋ねると、JAMSTECの担当者は「(トリウムやウランを)実際に測定してはいるが、具体的な数値は公表していない」と回答。そのうえで「海洋堆積物に天然に含まれる量、いわゆるバックグラウンドレベルと同レベルであるため、問題ないと判断している」とした。実際の数値は、非公開のままだ。
自然界にも存在する放射性物質のリスクを問う
そもそも放射性物質は、自然界に存在するものだ。そのリスクをどう評価するかは、専門家のあいだでも一枚岩ではない。
海洋環境放射化学を専門とするテキサスA&M大学のピーター・サンチ名誉教授は、自然界にはモナザイト鉱床のように、これと同等かそれ以上のトリウム濃度を持つ地域が存在すること、またそこに暮らす人々に明確な健康影響は確認されていないことを説明する。
「例えばイランのラムサールは世界最高の自然放射線地域で、住民は規制上の線量限度の最大50倍を被曝しているが、むしろ癌発症率が低いとする研究すらある。放射性物質が、人間や生態系に明らかな影響を及ぼしているダイオキシンのような毒物より厳しい基準で扱われているのは皮肉なことです」(サンチ名誉教授)
その上で、サンチ氏は深海採掘では製錬の過程でトリウムやウランが残渣に濃縮されてしまうこと、また低レベル放射性廃棄物としての処分方法を考えることが必要になるであろうことを指摘した。
製錬過程で「最大100倍」に濃縮されるおそれ
研究開発の段階を終え、商業ベースで大量の泥からレアアースを製錬して取り出す段階でトリウムが濃縮される可能性が指摘されている。これは将来、企業が製錬を行ったときに何が起きるか、という問いだ。
製品にする段階で放射性物質に対する懸念が浮上すると指摘するのは、レアアースのサプライチェーンと環境政策を研究するウィスコンシン大学マディソン校のジュリー・クリンガー博士だ。博士によれば、鉱石や泥からレアアースを取り出す製錬の過程でレアアースは原料の50〜100倍にまで濃縮されるが、それと一緒に含まれるトリウムも同じように濃くなっていく。つまり、原料の泥の段階でトリウムが「少ない」としても、それは商業化する際の安全性の証しにはならない上に、規制がかかってしまう可能性がある。
「放射性物質の規制は、原料を入れる段階ではなく、最終的な製品や廃棄物に対して適用される。製錬会社が『放射性物質を含む原料は受け入れない』という基準を持っていれば、原料の段階では濃度が低くても、製錬の過程で基準に触れてしまうことがある」(クリンガー博士)


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