「母さん、もうとんかつは作らんで」
毎日のように豚肉やパン粉を買い込み、食卓にとんかつを出し続ける高齢の母に、息子は思わず声を荒げてしまう。
けれど、認知症の母は翌日も買い物へ行き、とんかつを揚げる。戸棚を開けると、使い切れず傷んだ食材があふれかえっていた。「もう施設に入れるしかないか……」、息子は悩み葛藤していた。
そんな86歳の谷口正子さんが、今は「ばあちゃん喫茶」の看板料理人として、地域の人に愛され喜ばれている。介護を受ける側から、人をもてなす側へ。
認知症になっても自分らしく活躍できる福岡市の「ばあちゃん喫茶」を訪ねた。
福岡市から始まった「ばあちゃん喫茶」
エプロンを着て、豚肉をしっかり叩いて柔らかくしたら、衣をつける。注文が入ると、火加減を見ながら肉を油に入れて、こんがりと揚げる。お客さんから「とてもおいしかったです」と声をかけられると、谷口さんは照れくさそうにほほえんだ。
福岡市で始まった「ばあちゃん喫茶」は、75歳以上の女性たちが料理や接客の経験を生かして働く地域の食堂。店員5人はみんな介護サービスを受けている。
谷口さんはかつて福岡の繁華街・中洲で飲食店を営み、4人の子どもを育て上げた。夫が他界し、6年前に認知症と診断された。現在は要介護2で、2人の息子と暮らしている。


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