さらに、香港の即席麺市場での圧倒的なシェアを支えているのは、簡単に売れる魔法のノウハウではなく、愚直な「草の根営業」だという。
現地で信頼できるパートナーを選び、大型スーパーだけでなく地元の飲食店まで1軒1軒訪問。地道な試食販売を重ねて、現地での信頼関係を築いてきた。
香港の成功体験を中国本土の「カップヌードル」の営業活動に応用
そして同社は、この香港での成功体験を、中国という巨大市場に挑む今もそのまま応用している。現在、中国本土で展開する「カップヌードル」の営業活動でも、約1000名の営業担当者が年間約3万回もの対面試食を行い、泥臭い市場開拓を続けている。
「外国人である我々が、日本に特別な興味がない人たちにおいしさを知ってもらうのは簡単ではありません。その中で最も確実なのは、まず実際に食べてもらうこと。『前年よりも確実に前進する』ことに集中し、手売りでコツコツと積み上げてきました」(安藤社長)
香港で特に人気のアイテムは、「ごま油味」、「九州とんこつ味」、そして「黒マー油とんこつ味」だ。
日本では聞き慣れないこの「黒マー油」とは、ニンニクを香ばしく炒めた焦がしニンニク油のことだ。馴染みのなかった日本のとんこつラーメンに、現地で親しまれてきた「黒マー油」をかけ合わせることで、香港の人々にとって親しみやすい味に仕上げた。
安藤社長はこれを、「日本人が海外でステーキを食べる時に、しょうゆをちょっとかけるとホッとして安心するのと同じ感覚では」と表現する。
インタビューの端々から強く伝わってきたのは、現地の食文化への徹底したリスペクトだ。同社はこれまで、現地の食品メーカー2社を傘下に迎えてきたが、単に自社流を押し付けるのではなく、現地のブランドやノウハウを継承してきた。
「現地のブランドや技術をグループに迎えて発展させる時、味やコミュニケーションの最後の決定権は現地の香港人が握らなければ成功しない」
この徹底したローカライズ主義とリスペクトが、出前一丁の多様なフレーバー展開や新商品開発の軸となっている。香港の文化に寄り添い続けることで、出前一丁は香港で"ワンランク上のソウルフード"として定着した。


※ログイン後、コメント入力が可能です。