ジャックさんには、名古屋のトヨタに戻るという選択肢もあったが、年を重ねた富士子さんの母のことを心配し、近くに住むほうがいいだろうと考えた。そして、自宅近くにタイ料理店をオープンする。冒頭の話である。なぜ、会社を出ていく原因となった相手に、そこまでできるのだろうか。
「俺よりお母さんを大事にしろ」父から受け継いだ教え
義母の近くに留まったジャックさん。その行動には根っこがある。
二人には、現在33歳、28歳、22歳となる3人の息子がいる。子供の教育方針として二人で話したのは、「タイ人でもなく日本人でもなく、地球人として育てよう」ということだった。そして、地球人としてジャックさんが大切にし、子供たちに伝え続けているのは、挨拶を大事にすること、笑顔を忘れないこと、人に感謝すること。そして、「お母さんを大事にすること」だ。
「お父さんには文句を言ってもいいけど、お母さんには文句を言うな」「俺よりもお母さんを大事にしろ」
「僕自身が親父からそう教わったんです。『お前たちは9カ月、お母さんのお腹にいたから生まれてこれたんだぞ。だから、俺よりお母さんを大事にしなさい』と。それをそのまま息子にも伝えています」
ジャックさんのこの教えに、富士子さんはずっと助けられてきた。
富士子さんは姉妹で育ったため、「息子たちの子育ては、宇宙人を相手にしているようなものだった」という。
日本とタイのルーツを持つ息子たちは、自身のアイデンティティに悩み、長男からは「ママには僕の悩みはわからないよ、日本人なんだから」という言葉をぶつけられたこともあった。
「長男はタイで暮らしたり、インターナショナルスクールに通っていたりして、『自分は何者なんだろう』と葛藤を抱えていた時期がありました。私に対しても反抗的で、きつい言葉をぶつけられたときに、主人が長男を厳しく叱ってくれました」


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