もちろん、教材という「物」だけを残せばよいわけではなく、なぜこの問いを設定したのか、なぜこの活動を入れたのかという授業づくりの考え方まで、次の教員に伝える必要があります。なぜなら、公立学校には人事異動があります。中心となった校長や教員が替われば、優れた実践が消えてしまうことも珍しくありません。
三鷹第三小学校でも、改革を始めた山下裕司前校長はすでに退職しています。それでも実践が続いているのは、教材やノウハウを蓄積するとともに、学年チームで授業をつくる文化が育ってきたからです。そして何より目の前の子どもたちの成長が後押ししています。
現校長の髙嵜浩三氏は、着任するまでこうした授業を経験していませんでした。しかし、子どもたちの姿や教員たちの取り組みを見て、「この実践を続けることが自分の役割だ」と考え、取り組みを引き継ぎました。
前校長が方向を示し、山下氏をはじめとする現場の教員が具体化し、現校長がその価値を認めて支える。同校では、改革が1人のカリスマに依存せず、学校の文化として受け継がれてきたのです。
目の前の子どもたちのために授業と環境を変えていく教育へ
PISA2025の結果で、日本の子どもたちは、学力は高いが、好奇心や自己調整学習能力が平均以下であることが示されています。
「日本の学校は長い間、中間層を想定した一斉指導を中心に成り立ってきた」と奈須氏。しかし、子どもたちの背景や特性、興味、学び方が多様になる中で、全員に同じ方法、同じ速度、同じ場所で学ぶことを求める教育には、限界が見えています。
一方、三鷹第三小学校の調査では、自己選択と自己決定を数多く経験することで、自己調整能力の力を高めることにつながったという結果が出ています。
今回の事例から学べるのは、子どもの姿を出発点に単元を構想すること。教科の本質に迫る問いをつくること。つまずきを予測して教材や支援を準備すること。学ぶ方法や場所に選択肢を用意すること。そして、それらを一人の教師に任せず、チームでつくり、学校の財産として蓄積することなどいろいろあります。
こうした優れた実践から学び、それぞれの学校が自校に合う形で一歩を踏み出す方々が増え、公教育の新しいスタンダードになっていくことを願っています。


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