このとき私がしたのは、何かを教えることではありません。相手の中にすでにある考えや感覚に「気づかせる」聞き方をしただけです。
これこそが伴走型の聞き方。本人の可能性を信じ、問いを通して、内側にある答えを引き出す。この対話がきっかけとなり、Aさんは自信を持ってプレゼンに臨み、参加者の反応も上々でした。
相手の可能性の芽は、本人がまだ気づいていないことも多いもの。そして、人は指示されたことよりも、自分で気づき口にしたことに意欲を持ちやすい。
だからこそ、相手の中にすでにある答えを、こちらが信頼する。小さな「気づきの種」を見逃さず、「今、いい視点が出ましたね」と言葉にして返す。
牽引モードの聞き方とは、強引に引っ張る聞き方ではなく、自然な形で相手を育てる聞き方にほかなりません。
「感情的共感」からの「認知的共感」
「共感」と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは「感情的共感」、つまり、相手の気持ちに寄り添い、感情を一緒に味わうことです。相手の感情を上手に受け止め、「わかってもらえた」という安心感を与えることができます。
しかし、相手の可能性や行動を引き出す「牽引モード」においては、もう一歩踏み込んだ「認知的共感」が求められます。
認知的共感とは、相手の考え方、価値観、置かれている状況を「感情に巻き込まれずに理解する力」のこと。感情的に同調するのではなく、冷静な理解と想像力を持って相手の視点に立ち、その未来像や可能性まで見渡そうとする姿勢です。言い換えれば、「一緒に泣く共感」ではなく、「隣で地図を広げる共感」です。
たとえば、部下が「私にはこのプロジェクトは難しすぎます」と言ってきたとします。感情的共感であれば、「そうだよね、不安に感じるのも無理ないよ」と気持ちに寄り添うことで、安心感を与えることができます。
一方、牽引モードではこんなふうに対応します。「難しく感じる気持ちはよくわかるよ。一方で、きみの能力があれば、私はできると思っている。ちなみに、今どこに一番不安を感じている? そこから一緒に考えてみよう」。
このように、相手の気持ちを理解しながらも、感情に飲まれず、論理的かつ客観的にサポートしていくのが、牽引モードの真骨頂です。認知的共感をベースにした「冷静な客観視」や「可能性へのフィードバック」は、相手の中に眠る力や意欲を引き出します。


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