研究成果を社会に還元し、それをまた次の研究へとつなげる――。この循環は日本経済の成長を支える要であり、その担い手こそが大学発スタートアップだ。資源の乏しい日本が技術立国として再び成長していくためには、大学発スタートアップによる新産業の創造が欠かせない。
日本の大学の研究室には可能性を秘めた技術が数多く存在し、それらが社会に届くための外部環境は整いつつある。技術的なブレイクスルーやコスト構造の変化、地政学リスクの高まりを背景に、AIをはじめとする日本発のディープテックへの期待が高まっている。
政府も、スタートアップ製品の政府調達を通じて創業期の企業を支援する制度の導入を進める。アメリカのデータ分析大手のパランティアが、アメリカ政府を大口顧客として急成⻑を遂げたように、「政府が買う」という仕組みはスタートアップが飛躍する重要な機会になりうる。⺠間企業、政府、大学が一体となって技術を育成する環境が、今まさに形成されつつある。
事実、近年は大型の資金調達や上場を果たすスタートアップに、ディープテック領域が目立つようになった。これまで「時間がかかりすぎる」と敬遠されてきたが、資金と人材が集まり始めている。
ただ、変わったのは資金や人材の集まりやすさであって、研究室の技術が社会に届くまでの難しさそのものは変わっていない。追い風が吹いているときほど、この前提は見えにくい。
JAFCOは1997年に日本初の産学連携ファンドを設立して以来、大学発スタートアップ約160社に対して投資や支援を行ってきた。そのすべてが成功したわけではなく、市場の立ち上がりを読み違えたケースや、技術は優れていながら事業として成立しなかったケースも数多くある。
特定の成功体験によるものではなく、成功と失敗の双方を含む約30年分の経験を振り返り、大学発スタートアップがもう一段発展していくために何が必要なのかを分析していきたい。160社の支援を通じて見えてきたのは、事業化を進める過程で多くの研究者が共通して直面する3つの課題だ。
技術だけでは越えられない、3つの課題
課題① 経営人材の獲得難
ディープテック領域における経営人材の確保は、日本において構造的な難題となっている。実際に、スタートアップエコシステムの国内外の関係者からも、技術的素養を有するCEOやCxOなどの人材育成が急務であるとの声が挙がっている。 その背景には、エコシステムが発展途上にあり、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の⺟集団自体が小さいことがある。また、経営と技術の双方を経験するキャリアの往復が少なく、両者に精通した人材が育ちにくいこともある。結果として、ディープテック領域への経営人材の流入は限定的なままだ。
課題② マーケットリスクの抱え込み
技術的優位性が高いからといって、市場適合性(プロダクトマーケットフィット)も高いとは限らない。日本では技術開発と事業化の間をつなぐ支援環境が十分に整っておらず、技術起点での開発が先行し、どの市場で戦うかの見極めが後手に回りやすい。
既存製品との差別化が曖昧なまま、あるいは狙うべき市場を特定しないまま開発を進めると、どれだけ優れた技術を持っていても、事業成果につながらないというマーケットリスクを抱えることになる。これは研究者側だけの問題ではなく、早い段階から市場の議論に付き合える投資家・支援者が限られてきたことの裏返しでもある。
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